やまかます(山叺)

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昨年、スミナガシ越冬蛹を見つけた川沿いの林道に行ってみた。
フィールドへ出るのは久しぶりのような気がするが、こことてうちから車で10分とかからない。

若いクヌギ林を歩いてみれば、ヤママユのまゆ殻がいくつか梢にぶら下がっていた。
まゆ殻は無事に羽化できたもの、あるいはそうではなく鳥にでも喰い破られたものなど、それぞれの運命を語っている。

ふと隅っこのクヌギを眺めてみれば、「やまかます」が二つぶら下がっていた。

W2025530.jpg「やまかます」はヤママユのまゆとは違って、絹糸の色がそれほど色褪せてはいない。
その形といい、色合いといい、だから「やまかます」は人気がある。

「かます:叺」と聞いても、その意味がわかる人は滅多にいないだろう。
「かます」は、今の時代なら民族博物館などへ出向けば見ることができる。
例えば宮崎総合博物館なら2階の展示室の壁にぶら下がっている。

ウスタビガのまゆを「やまかます」あるいは「つりかます」と呼ぶ地方もあるが、その名称は「かます」によく似ている形状からきている。

以前にも書いたことがあるが、ある時期、私はウスタビガの撮影に没頭していた。
それで秋深まって、新潟の山中でウスタビガのまゆを探していた。
まだ羽化していないまゆを梢の合間から見つけ出すのはきわめて難しい。
徒労の挙句、羽化して抜け殻となったまゆばかりしか見つからない、そんな苦い経験をずいぶんと繰り返した。
そんなある日、山仕事に来ていた一人のおじいさんに出会ったのである。

私はウスタビガのまゆを探しているという説明をしながら、これは通じないな、と気付いてから、
「あのう、やまかます、かますみたいな緑色のまゆ、を探しているのです。」
と言い直すと、
おじいさんは急に笑顔になって、ときどき見るよと、嬉しそうに教えてくれたのであった。

別れ際、熊には用心しなさい、とも忠告してくれた。
おじいさんの人生と私のそれとは何の接点もないはずだが、そのときはおじいさんと気持ちを共有できたような頼もしい気分になれたことを思い出す。

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