| 釣りは小学生のころに少しやった程度。趣味としてのめり込むほどではなかったが、それでも楽しかった。 大人になってから、嫁さんの実家の海でタイ釣りをしたことがある。真珠筏の浮かぶ入り江から小舟で沖合に出る。釣り餌は小エビ。船べりから糸を垂れて、当たりを待つ。
タプン、タプンと波の打つ音を聞きながら糸を垂れている時間は、ほんとうに心地良く、いつまでもこのままでいたいような気持ちになる。ググッと引きがきて、何度か目にはようやくタイを釣り上げることができた。小柄なタイだったが、綺麗な色をしていた。
小さいころから海は好きだった。底知れぬ深みは恐怖だが、そこには数知れぬ生き物がうごめいている。生き物がどっさりといる、そのことが好きだった。
朝の散歩で見つけたクモは、まさにタイ釣りのごとく糸を垂れていた。じーっと見つめていると、糸はかすかにユラリ、ユラリとあるかないかの風になびいている。 なるほど、当たりを待っているのだな。
そこでイタズラをしてみる。垂れた糸の先をそっと人差し指に絡めてみる。 するとかの釣り師はすぐさまに反応する。
ツツツツツー、綱渡り。
(写真/E-520 50ミリマクロ) | |