| 今日もエノキに関わる虫の話題。
この奇妙な形をした虫コブの名前は「エノキハトガリタマフシ」(写真上)。
ちょっと憶えにくい名前だ。 ましてこの虫コブを作った犯人がタマバエ科の「エノキトガリタマバエ」であるから、なおややこしい。
とにかく虫コブの中を覗いてみると、白い幼虫が一匹ずつ入っている(写真下)。
中はけっこう広い空洞だが、幼虫はここでなんらかの栄養を内壁から得ているのであろうか。 こうして切り開くと幼虫はもぞもぞ動く。
虫コブあるいは「虫えい」というものはなかなか複雑な生物世界だ。 全国農村教育協会から出版されている『日本原色虫えい図鑑』は、その奥深い虫コブ世界の道案内となる貴重な文献だ。
さて、この図鑑の解説を読んでみて驚いたのが、エノキトガリタマバエ(というかタマバエ類全般)の生態である。 その驚きの要点は二つ。
まず成虫タマバエの寿命はとても短く、1、2日という!! 口は退化していて食事どころではない。
そして二つ目は、幼虫の休眠期間が異常に長いこと! 5月下旬頃に虫コブはエノキの葉から脱落し、そのまま地上で翌春を迎えるという。 つまり幼虫は成長を終えても蛹にはならず、虫コブシェルターの中に籠ったまま、夏、秋、冬と過ごして翌春にようやく蛹となって羽化するというのだ。
ということは交尾や産卵のタイミングも極限られた時間に集約されることになる。
そこいらにいくらでも見つかる「エノキトガリタマバエ」の虫コブも、その一生の全貌を撮影しようと企てるなら、それ相当の根気と努力が必要である。
科学写真としてなら真面目に取り組めばある程度は撮れてしまうだろう。 だが、私はそれではつまらんなあと思うのである。
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