| 『昆虫ある記』の3回目(7/5)でコムラサキの成虫が登場している。場所は清瀬市の金山緑地公園だった。 ヤナギの樹液に集まるコムラサキの個体数の多さには驚いたものだが、成虫を撮影しているうちに葉っぱでは幼虫も目にしていた。そういうこともあったので、今日は越冬幼虫を探しに行ってみた。コムラサキは秋の最後の世代の若い幼虫で越冬する。 緑地公園の池では、毎度の事ながら朝から野鳥写真を撮るおじさんカメラマンが数人いらっしゃる。まあ、わたしもすでにオジサンの域であるけれど、あちらはもっと年季の入った方々だ。それは別段どうということもないのだが、まだ大学などは冬休みのはず。まったく何時来ても若い鳥屋さんなり、虫屋さんなりに出あわないのが寂しい。もっとも、目を輝かせ好奇心一杯抱えて自然を探索する青年が皆無なのは、なにもここだけでの話しではない。
私はついつい自分が高校生であったころ、自然への熱い想いに突き動かされ、田畑や河川敷をうろついた当時を思い描いてしまう。すべてが新鮮で驚異に満ちた毎日であったと思うが、一方でどこから何を見ていけばいいのか要領を得ず、空回りするもどかしさもずいぶんと味わったものだ。そう、今程に自然界での発見の喜びに浸れる瞬間は、多くはなかった。 そんな高校生のころの4月のある日。私は小川でヤナギの木を丹念に見ている、60は越した小柄なおじさんに出会った。リュックを背負い、足下はキャラバンシューズ。いかにも博物学おじさんといったところか。私はドキドキしながらも、何をしているのか勇気を出して聞いてみた。すると博物学おじさんは 「私ですか?きょうは、ヤナギの木でコムラサキというチョウの幼虫を探しておるんじゃが。 ちょっと、少ないようですね。今度の土曜日に県立博物館でチョウの飼い方という教室を開きますから、 あなたも学校が終わったら来ませんか?」 おじさんは、にこやかに応対してくれながら、川の水で顔を洗い、手拭いを出した。 私はここぞとばかり、今までのもどかしさの中から必死になって優先順位を付け選び出し、いくつかに絞り込んでから怒濤のごとく質問したのを憶えている。藁にもすがる思い、とはそのときの心境であったろう。しかし、おじさんは嫌な顔ひとつせず、丁寧に一つ一つ答えてくださった。
と、いうような28年も昔の回想をしたのも、わたしのようなおじさんに、くらいついてくるような若いにいちゃん、ねえちゃん(さすがに女の子は元々、度珍品です)の輝く目を見ることがないということに尽きる。たまに野外観察会で元気に質問してくる小学生たちに囲まれると、少しは安心もするのだが、だがやはり、その先の世代、思春期、受験といった波風に揉まれるあたりの子供たちや青年期の学生たちの姿に接することがないことには、危機感すら憶えるのである。 などと、とりとめもないことを思いながら緑地公園のヤナギを見て回ったのだが、なかなかコムラサキの越冬幼虫が見つからない。先日、古利根沼でも空振りしているせいか自信がなくなりかけたころ、コムラサキならぬ「エリマキアブ幼虫」がヤナギで見つかった。 おお!まさにコムラサキ幼虫が見つかるはずの枝又に、エリマキアブ幼虫が鎮座している!そして同じ木の別の枝では、アブラムシを捕食中のものまで見つかったぞなもし!(写真上) さらに3匹目の幼虫も見つかり、エリマキアブ(フタスジヒラタアブ)幼虫はヤナギにもつく(おそらく親がヤナギに産卵したのであろう)ことが判明。これは新たな収穫であった。
そうこうしてヤナギをさらにしつこく探索していると、携帯電話が胸元で鳴る。 なんと川崎市の方では今し方、モンシロチョウが飛んでいる!というお知らせをいただいた。 こんなに早い初見日は、四国でも滅多にないのでは。
最後に残しておいた有望そうなヤナギに場所替えし、探すこと3分。 いました!コムラサキ越冬幼虫。なんと、30年ぶりに見る姿だ。(写真中、矢印の先、頭が下向き) (写真下)は頭部を拡大したところ。見事なまでに幼虫の体は枝に溶け込んでいる。体長は6ミリ位か。 枝に鼻先がくっつくくらいにして探さないと、見落としてしまう。幼虫の見つかった枝又は地面から45センチ位の高さだ。
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