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ラクダムシ幼虫 2004/01/02
バックナンバー12/10にアップした、樹上越冬のゴマダラチョウ幼虫が姿を消した。
この時期に移動することはまず無いと思うので、鳥か何か天敵に捕食されたのではないだろうか?

先日アオスジアゲハの蛹を拾ったので、前々から気になっていたタブノキを見に行ってみた。
歩いて3〜4分の場所だが、そこのタブノキ葉っぱにはアオスジアゲハ幼虫の食痕が多数付いている。
残念ながら蛹の死骸が3つ、見つかっただけであった(写真上)。
しかし、このタブノキは葉っぱが非常に密に繁っており、私の探索が届かない箇所の方が多いので、
きっと緑色の美しい蛹が付いていると思いたい。
本来、南方系のアオスジアゲハは、東京でもすっかり普通に見られるチョウになっているが、
時代を遡れば稀なチョウであったはずだ。
温暖化とクスノキ類の植樹が都内に増えたことが、アオスジアゲハの北上につながったのであろう。

元旦にも神社に出向かなかった私だが、今日は近くの八幡神社に立ち寄ってみた。
お賽銭は用意してなく、これはいかんなあ、と思いつつ虫探しにはぬかりがない。
境内のスギの樹皮下で、久々に「ラクダムシ幼虫」(写真中)を見つけることができた。
ラクダムシは、分類学的にはアリジゴクのウスバカゲロウやクサカゲロウといった昆虫のグループに
近いのだが、最近は独立した「ラクダムシ目」として扱う向きもあるようだ。
とにかく異色の昆虫には違い無い。
成虫は写真の幼虫に翅を付けたような格好だ。海岸の松林では個体数も多いようだが、
内陸の林ではあまり見かけることがない。
成虫は5月の中頃に現れるが、私自身は昔、大田区の池上本門寺で1回見たのが最後だ。
特別珍しい虫でもないが、そうちょくちょく出会える虫でもない。
しかしながらこうして冬の間に、様々な樹皮下で越冬する幼虫を見つけることは比較的多い。
私はさっそくこの幼虫を持ち帰り、飼育することにした。
ラクダムシは成虫、幼虫、共に肉食であるから、特に冬場の餌調達には神経を使う。
よーし、超!お宅なブリーダーになってやろうではないか!
といって、すでにオキナワツノトンボ幼虫、ヒメマルゴキブリ、エリマキアブ幼虫、
などなどすでに極みに入っておりますが。

ついでに立ち枯れのボソボソになった樹皮をめくると、
「ミヤマオビオオキノコムシ」が出て来た(写真下)。
もっと条件が良ければ、数十頭の集団になることも珍しく無い。
冬越しに際して、同種が集団を成す現象はナミテントウなどでもよく知られているが、
いったい何故?という疑問に明解な答えはまだ、ないようだ。



新開 孝

元旦のセミ!? 2004/01/01
4歳の子供が、マンションの外廊下で「セミがいるよ!」と私を呼ぶ。「なにーっ!?」と駆け寄ってみると
子供がしゃがみ込んで指さす虫は、もちろんセミではなかった。しかし、そう言われてみれば沖縄にいるイワサキクサゼミに似ているようにも見える。クサゼミは小さいセミで体長は1.5センチ程度。で、子供が見つけたセミモドキの正体は体長1センチに満たない「ミバエ」の一種であった(写真上)。私は強いて自分の子供を昆虫少年に育てようとは考えたこともないが、日々散歩に連れ歩いているのだから嫌でも昆虫を見る目が育まれているようだ。それにしても産まれて初めて見る昆虫に対しての子供の反応ぶりは、横で見ていて面白い。

廊下に転がっていたこのミバエはすでに弱ってはいたが、体に大きな損傷は見当たらない。いったいどうしてでんぐり返っていたのか、これも謎だが、ともかく部屋に持ち帰り撮影したのである。

「ミバエ」は英語でフルーツ・フライと呼ばれることからもわかるように、果実、果菜の害虫になる種類も多い。今回、アップしたミバエの種類はわからず、本種も害虫になるのかどうかもわからない。ただ、ミバエ類は翅にも模様があったりして、その翅を拡げたまま葉上でくるくる回ってダンスを披露してくれるので、出会うと印象深い昆虫である。そして特に複眼は微細な金属光沢を放ち、思わずカメラを向けたくなる(写真下)。
今回も65ミリマクロレンズを使用し、昨日が撮影倍率3倍なら、今日は4倍!で手持ち撮影した。この撮影倍率とは、被写体に対してCCD上(銀塩カメラならフィルム上)に写る像が何倍であるかを意味している。通常、小さな昆虫を撮影する場合、カメラを手持ちで撮影するときの倍率は3倍が上限と、私は決めている。その場合でもレンズ先端を地面や木などに手で支えを得ることができるという条件が必須となる(その撮影ポーズはバックナンバー12/23に出ている森上さんの姿を参照のこと)。
自然界ではいろんな障害物もあったりするので、いつも三脚が使えるわけではなく、手持ちでは厳しい撮影も敢えて三脚無しで行うことも多い。だから日頃から手持ち撮影の修練は大事でもある。もっとも私は不精な方で他のカメラマンに比べると三脚は使わないことが多過ぎて、実のところ反省している。
65ミリマクロレンズは等倍から最大5倍までの拡大接写ができ、長いことこんなレンズが欲しいと登場を首を長くして待っていたレンズだ。まさに昆虫写真家、必須のアイテムなわけで、キャノンがこのようなレンズを出してくれるまでは、オリンパスのシステムに頼るしかなく、35ミリ判ではメイン機材がキャノンである私としては、いつも機材軽減の支障になっていた。実はこのレンズの存在が、デジタル一眼カメラの選択にも大きく関与しており、ニコンのシステムも一応は揃えている私だが、ニコンデジカメに魅力を感じつつも導入できない理由はそこにある。ニコンにも高倍率接写専用レンズを早く出して欲しいものである。新開 孝

クサカゲロウ幼虫とアブラムシ 2003/12/31
大晦日とあっては昆虫写真家といえど、いささか動きが自由にならない。つまりフィールドに出る時間がわずかしかないのである。しかしながら以前にも書き込んだササコナフキツノアブラムシのコロニーを見ておくことだけは、予定に入れておいた。
午後3時30分、アズマネザサの葉裏をめくってみると、アブラムシ、コロニーにクサカゲロウの幼虫が頭を突っ込んでいた(写真上)。まさに捕食の真っ最中である。この写真の撮影倍率は約3倍であるから、アブラムシとクサカゲロウ幼虫の体がいかに小さいか御想像願いたい。撮影はカメラを手持ちで行った。捕食シーンを迫力ある写真にするためには、撮影倍率をさらに9倍近くまで上げる必要があるが、もはやそうなると大型三脚に加えて、被写体を固定するための三脚とア−ム類、照明用電源などと、かなり機材的な準備を要する。
それにしても、ササコナフキツノアブラムシのコロニーはいずれも小規模なものばかりしか見つからず、冬を辛うじて越しているという感触を受ける。なんとか春を迎えれば、そこで一気にコロニーの勢力を取り戻そうという、そういうアブラムシたちの生活シナリオを私は勝手に描いてしまうが、実際のところどうなのだろうか?このクサカゲロウの一種の幼虫にしても、勢力の落ちたアブラムシコロニーを頼ってばかりで、それでちゃんと成長できるのであろうか?

「昆虫観察トラップ」の歩道柵を最後に見て歩くと、羽化したばかりの新鮮な「ヒラタアブの一種」を見つけた(写真中)。この個体はメスであるが、オス、メスの見分け方は複眼の形状ですぐわかる。その仔細についてはいずれわかり易い写真で紹介しよう。百聞は一見に如かず、である。
ヒラタアブ類はこのように晩秋どころか、本格的な冬に入ってからもゆっくり成虫となり、そしてそのまま冬を越すのである。フタスジヒラタアブ(エリマキアブ)然り!である。

さらに歩道柵では「アメイロハエトリ」(写真下)が歩いていた。うーむ、このクモの餌となり得る獲物はなんであろうか?真冬で獲物がいない、などとということは無いのであろう。それなりに昆虫は動いておるのだ。
まあ、しかしこの「年末」、「新年」という行事を口実に、お酒を昼間からいただけることに、私はとても嬉しい気分で過ごせることを告白したい。ああ、平成15年も今日で終わり、です。
新開 孝

ニワトコフクレアブラムシとタマムシ類 2003/12/30
中里の林に出向いたのは午後2時頃。ニワトコの冬芽には多数の「ニワトコフクレアブラムシ」が付いていた(写真上)。成虫、幼虫ともに多くアブラムシだけを見ていると真冬という気がしない。よく鳥に食べられてしまわないものだと、不思議にも思う。
今後の推移に気を付けて見ていくことにしよう。

スギの樹皮をめくってみると、タマムシの仲間が3頭見つかった(写真中)。
一番上の小さいタマムシは体長3.2ミリ程度。「チビタマムシの一種」だ。
下の2頭は「ヒシモンナガタマムシ」。こちらは秋のころ朽ち木から羽化した新成虫が、こうして冬越しをし来年の5月ころから活動を始める。
いずれも小さいながらルーペでよく見ると、金属光沢を帯びた微細な紋様があって綺麗だ。
タマムシ類は夏場の活動している時期にはよく動き回り、見つけてもなかなか撮影させてくれないものが多い。

「せせらぎ公園」の流れでは、シマアメンボがわずかに1頭のみ泳いでいた。
また遊歩道の木柵の上で、クロスジフユエダシャク、メスの死んで間も無いと思われる死体を見つけた。
腹部は丸々と肥えており、産卵することなく死んでしまったようだ。

「アオスジアゲハの蛹を拾う!」

昨日、木曽福島から東京に戻り、もうすぐ武蔵野線、府中本町駅近くという路上でのこと。
信号待ちで止まっていた車中の助手席から、私はクスノキの枝が車道にころがっているのが見えた。
街路樹のクスノキから落ちたものであったが、葉っぱも元気で生々しい。
葉っぱの一部には虫食い痕があり、それはアオスジアゲハ幼虫の仕業であろうと思えた。
まさかアオスジアゲハの越冬蛹でも付いておらんだろうなあ、と思い眺めていると、
なんと!枝の近くの路上に蛹が本当にころがっていたのである!(写真下)
信号が変らないうちにと、車から降りて慌てて拾ったのは言うまでもない。
枝が落下したショックで、蛹は台座の糸ごと葉っぱから振り落とされたようだ。
体は綺麗な緑色であるが、角のような大きな頭部上の突起先端が欠けていた。
枝がちぎれて落ちたのは、どうやら大型トラックなどが街路樹のクスノキ梢に接触したせいと思われる。
突起先端の傷はかなりの重傷のようだ。
そこから体液が溢れだし台座糸を黒く染めてしまった。来年、羽化するのは難しいのではないだろうか。


新開 孝

木曽福島町の昆虫 2003/12/29
27日、28日と標本撮影の仕事に励み、本日は午前中の時間を使って木曽福島町(写真上)のフィールドを歩いてみた。
こうして木曽駒ヶ岳を背にした町全景の写真では、いかにも雪に閉ざされたように見えるが、実際には山道に入っても雪の無いところが多く、通常の靴で歩くことができる。さすがに活動している昆虫はガガンボの一種くらいしか目にしないが、気温は5度くらいだろうか。しかし、樹皮の隙間などで冬越しする昆虫をいくつか見つけることができた。

まずは「ベニモンツノカメムシ」(写真中)。
体長は11ミリ程度。ケヤキの樹皮の隙間に潜り込んでいた。ツノカメムシの仲間には色鮮やかな種類が多く、人気が高い。このケヤキでは他にもベニヒラタムシやキノカワガ、クチナガゾウムシの一種など様々な昆虫が潜んだり、静止していて楽しめた。テンのものと思われる糞もいくつか見ることが出来た。ニホンカモシカの足跡もある。

ニホンミツバチの飼育箱も雪対策であろうか、木で組んだ台の上に置いたり、(写真下)のように木の幹に針金で固定したものをあちこちで見かけた。写真の巣箱はスギか何かの木をくり抜いたものだ。ニホンミツバチの巣箱の形態は、日本各地でその土地柄の素材や作り方、置き場所に至るまで千差万別があって、興味深い。
このように丸太をくり抜くタイプは時間も手間も掛かって大変だと思うが、2年前に和歌山県で見た丸太方式ではさらに極め細かい工夫がなされており、野性ミツバチと付き合うなかでのそれぞれの人々の自然観が垣間見え、面白い。新開 孝

ササコナフキツノアブラムシなど 2003/12/26
昨日、「古利根川」と称したが正確には「古利根沼」が正しいという指摘を受け訂正した。なお、市販されている地図では「古利根川」と出ているものもあることを付け加えておく。その「古利根沼」で見つけたヒカゲチョウの幼虫を昨日はアップできなかったので、今日、紹介しておこう。
アオキの葉裏で友人が見つけた幼虫は、体長13ミリ。3令幼虫であろうか(写真上)。写真では左が頭であるが、顔をべったり臥せるようにしているので、体の特徴が掴みにくい。これは隠蔽効果を上げるのに役立っているだろう。ヒカゲチョウは中里でももっとも普通に見られるジャノメチョウ科のチョウで、この『ある記』のバックナンバーでも取り上げている(10/27)。ジャノメチョウの仲間は地味だが、翅の紋様には何か怪しい雰囲気を感じ、私は好きなチョウである。

さて、中里の林を午前中歩いてみたところ、また新たに「エリマキアブ幼虫」(フタスジヒラタアブの幼虫)をエノキで見つけた。中里の林で目下観察中の幼虫はこれで増えたり減ったりしながら、5匹となった。餌が不足しているせいなのか、幼虫たちに動きが見られるようだ。暖冬のせいでこうして遅くまで幼虫たちが残っているのか、それとも通常の生活サイクルなのか興味深い。

林ではなんとか活動中の昆虫を撮影しようと丹念に探し歩いたところ、コナラの立ち枯れで「ヒラタハネカクシ」が歩いているのが見つかった。体長は5ミリと小さい(写真中)。このときカメラのレンズは等倍までしか撮影できないレンズで、一応はそれで写したあともっと拡大接写できるレンズに交換しているうちに、ハネカクシは姿を消してしまった。したがって今回アップした写真はかなりトリミングしている。

アズマネザサの葉裏では「ササコナフキツノアブラムシ」のコロニーが見つかった(写真下)。「ササにつくコナをフイた、ツノまであるアブラムシ」は白い粉を全身にまぶしているため、どこが虫なのやら何匹いるのやらわかりずらい。近日中にこのアブラムシの仔細な姿を撮影して紹介しようと思う。この長ったらしい名前のアブラムシは、兵隊アブラムシを有することや、ゴイシシジミというシジミチョウの幼虫の餌となることでも、よく知られている。その生態に関わる話は拙著『珍虫の愛虫記』にも書いてあるので参照されたい。

「新開 孝からのお知らせ」

またしても木曽福島に出張撮影で出掛けます。27日に出発して29日には帰京する予定です。したがって27、28日とこの『昆虫ある記』はお休みさせていただきます。さすがに今回の木曽福島は雪の中ですし、もっぱら室内撮影の仕事ですので、前回のようにラッキーな昆虫との出会いは果たせないかもしれませんが
、宿は前回と同じ山荘ですから夜の灯りに何か来てくれる可能性もあります。

12/24に種名が不明としたクサカゲロウは、「アミメクサカゲロウ」という御指摘を受けました。どうもありがとうございました。種名の誤りなども是非、メールで御教示いただけると助かります。

新開 孝

古利根沼を歩く 2003/12/25
柏市の友人と飲んで翌日、その友人の案内で千葉県我孫子市の「古利根沼」を訪れた。ここは利根川から三日月湖状に取り残された水域である(写真上)。ここではトンボがよく調査されており、トンボ相はなかなかのものが期待できるフィールドのようだ。平日だというのにのんびり釣り糸を垂れる人の姿も多い。
川岸に沿っての河岸林は主にシロダモ、シラカシ、アオキなどが優占しており、ムクノキ、エノキ、竹林がそこに混じる。川辺にはヤナギ類やハンノキがぽつぽつ生えている。やたらと多いアオキ、ヤツデの葉裏を覗いてみるが、クロスジホソサジヨコバイは全く見つからなかった。しかし、友人はアオキの葉裏からヒカゲチョウの若い幼虫を見つけた。どうやら、まだササの葉で活動をしていたものが、偶然アオキに乗り移ったようだ。あるいはそこで冬越ししていたのかもしれないが。
シラカシではヤママユの繭殻を見つけ、そのすぐ側の枝には卵が多数付いていた(写真中)。数えてみると24個もあった。
川岸を歩いていくと、ヤナギ類のものと思われる立ち枯れの朽ち木が多く、そこにはコクワガタの産卵マークが多数付いている。さしずめ「コクワガタの高層ビル団地」とでも言えようか。さらに朽ち木の柔らかいところにはコガタスズメバチ女王やヒメマイマイカブリなどが潜り込んでいて、なかなか楽しめる。
このあと柏市の「水辺公園」に移動した。ここは通称「カモ公園」とも言うそうだが大きな池と取水口近くの湿地には木道が布設されている。ヤナギでコムラサキの越冬幼虫を探してみたが、見つからない。有刺鉄線ではモズのはやにえがあった(写真下)。アカスジキンカメムシの終令幼虫だ。近頃は暖かい日も多いので、落ち葉の下から這い出て活動していたのだろう。はやにえの近くではモズのぺリットも一つ拾った。これは持ち帰り、どんな昆虫をモズが食べていたのか後日調べることにしよう。新開 孝

エリマキアブ幼虫の正体! 2003/12/24
昨日、多福寺で見つけたクサカゲロウの一種の全身写真を紹介しておこう(写真上)。翅が巾広いため、こうした平面に静止するとどうしても扇状に広がってしまうようだ。ちなみに細い枝に移してみると翅を屋根型にたたんで落ち着いた。体長は2センチ程度だが、触角は翅の長さよりさらに長い。手元の図鑑を調べてみたがこの虫の名前はわからなかった。本種は成虫越冬であろうと思う。

さて、昨日ついに羽化したエリマキアブ成虫を今日撮影した(写真中、下)。謎であった幼虫の正体がようやく判明したわけである。
幼虫はヒラタアブ類の一種であろうことは判っていたので、『ハナアブの世界』というサイトで成虫の名前調べを試みてみた。
その結果、『ハナアブの世界』に掲載されている標本写真から察するに、エリマキアブの正式和名は「フタスジヒラタアブ」のようである。今回羽化した個体はオスであった。
いずれ標本を専門家の方に見ていただき確認をとるつもりでいるので、後日、報告したい。
今までずっと「エリマキアブ」で通してきたので、この名前が頭にこびりついてしまったが、こうなると私が名付けた「エリマキアブ」という呼称は、もはや使いづらくなった。
もちろん、今後も本種の生活については注目していきたいという思いに、変わりは無い。
新開 孝

多福寺の昆虫観察 2003/12/23
12/15発行の『ナショナルジオグラフィック』12月号、日本版の「日本新発見」というページに、ウスバカゲロウ(アリジコク)の生態写真が掲載されている。繭の見事な断面カットでは蛹の顔や、そして滅多に見られない交尾の貴重なカットまである。このページの写真全てを撮影したのは昆虫写真家、森上信夫さんだ。大学職員というサラリーマン稼業でありながら、日夜、昆虫撮影に励んでいる。根っからの昆虫少年がその夢を未だに追い続けており、そのうち私なども脅かすプロ写真家に脱皮しそうなお方である。いやもうすでに充分脅かされているが。

今日はそんな凄い方と埼玉県入間郡の多福寺の雑木林を歩いてみた。
いきなりシラカシの幹で、私がクサカゲロウの一種を見つける。
地衣類にべったりと止まった格好は、翅を扇状に拡げており、隠蔽効果は高い。しかし、森上さんも「普通、クサカゲロウって翅を屋根型にして静止しますよね」という鋭い指摘の発言。そうなのである。「このクサカゲロウはどうもおかしいね」と言いながら私はとにかく撮影開始。デジタルカメラのプレビュー画面を見て、そこそこに終了すると次は銀塩派の森上さんの番だ。「おっ、これは昆虫撮影ポーズのお手本だ!」すかさず私は森上さんを撮影した(写真上)。銀塩派の森上さんはとても慎重に撮影なさる。懐かしい緊張感がそこには漂う。しかも使っているカメラがオリンパスのOM-4チタンだ!おおっ!
このクサカゲロウ、やはり地衣類の上で撮影したのでは何が何だかわからない写真となった(クサカゲロウにとっては好都合!)。今回は顔のアップ(写真中)のみで、後日、姿がよくわかる写真をあらためて紹介したい。
広い雑木林をゆっくり巡るうちに、フユシャクガの一種のオスが地面に降り立った。「あっ、このオスは地面で吸水しているようですよ!」私が叫ぶ。二人とも地面に腹這いになり、フユシャクガの口元を覗き込み、またもや撮影会。口吻はとても短いが、しきりに湿った地面をなぞるようにして、忙しく伸ばしたり縮めたりしている。
よく見ると、口吻の先の方は二つに裂けており、羽化して間も無い個体ではないか?そんな口吻で水を吸い上げることができるのだろうか?などなど疑問の会話を交わしつつ、撮影の手は休めない。
ひとしきり撮影した後で、種名同定のため採集しようと二人で追い掛け回したのだが、ついに見失ってしまった。
こういう現場を普通の人に見られないで良かった、そう思いながらも、二人はおしゃべり絶えることなく昆虫探索を続ける。
それにしても雑木林はとても静かだ。
コナラの枝ではクリオオアブラムシが集団で産卵をしている(写真下)。
茶色に光っているのが卵だ。いずれ卵の色は黒ずんでくる。孵化するのは来年の春だ。
昼飯を挟んで林を一巡したあと、中里の雑木林に移動した。森上さんも私の『ある記』を毎日、覗かれており、現場に行ってみたいと思われたそうだ。それとエリマキアブ幼虫も一目見たいとのこと。森上さんを林に案内し、マンション裏のキボシカミキリも探してみた。残念ながらキボシカミキリは居なかった。

「エリマキアブ・成虫、ついに羽化する!!」

森上さんをお見送りしたあと、ふと気になっていたエリマキアブ蛹の入った容器を覗き込むと、おお、なんと成虫のヒラタアブがケースの壁に止まっているではないか!
昨夜もしきりと羽化兆候を掴もうとしてじっくり観察したばかりだが、何の変化も見つけられなかった。
ヒラタアブ類の羽化撮影はかなり難易度が高いようだ!羽化したのは本日、昼中であったようだ。
しかしながら謎であったエリマキアブ幼虫の正体は、これで間もなく種名が判明することとなった。
その作業にはしばし時間を要するので、成虫の写真アップも後日になることをご了承願いたい。

新開 孝

クロスジホソサジヨコバイ、再び 2003/12/22
12/13にも触れた「クロスジホソサジヨコバイ」。あれ以来、私は彼らの翅の模様にいくつかの変異があることに気付き、それが性差によるものなのか、それとも個体変異なのかを知りたくて、いつかはきちんと調べてみようと考えていた。
クロスジホソサジヨコバイの背中の帯び模様を詳しく見てみると、和名のごとく「黒筋」タイプのもの(写真上)と、黒筋の外側が赤い「赤黒」タイプのもの(写真中)、そして12/13にアップした写真のごとく帯びがほとんど赤色の「赤筋」タイプ、というように黒と赤の帯びの巾の取り合わせがいろいろなのだ。赤と黒の筋模様のバランスがこのように違うのはどうしてだろう?
ところで、今までに出会った個体の性別を見てきた限りでは、なんとメスばかり。メスはお尻の方に産卵管を持っているので、性別を調べるには体をひっくり返して、お尻のあたりをルーペで見ればいい。それで今日あらためて15頭を捕獲し、性別を調べてみたところ、メス12頭に対して、オスはわずかに3頭であった。オス3頭の模様は「黒筋」、「赤黒」の2タイプがあり、やはり多くのメス同様に個体変異があるようだ。
オスが少ない理由はなんであろうか?今の時期はすでに幼虫の数がかなり減ってきており、どうやら羽化ピーク終盤のようにも見受けるが、今後、オスが増えてくるのだろうか?

(写真下はメスの顔)


「羽化撮影待機、終了!」

今日も慌てて午前中の短い時間、中里の林を歩き、クロスジホソサジヨコバイの採集のみを心掛けうちに戻った。
そう、まだ例の羽化待ちをしていたのだ。
しかし午後3時過ぎ、私はその撮影待ちからようやく解放された。
その羽化した昆虫とはクロスジホソサジヨコバイそのものに他ならない。
これで彼らの羽化に立ち会えたのは3回目である。
彼らのように体が小さく(幼虫の体長は5ミリ以下)しかも葉っぱの裏側に貼付いたように薄っぺらな状況では、撮影のライティングも苦労する。
幼虫は羽化を始めるまでけっこう移動するので、
撮影位置をあらかじめ定めてライティングをがっちり決めるわけにもいかない。
葉っぱの微妙なカーブなどが予想外のアクシデントとなり、いざ羽化が始まってから慌ててストロボの位置をセットし直すことになる。
そうこうするうちに撮影の絶妙なタイミングを失ったりもした。
そもそも幼虫がいつ頃羽化するのか、羽化予定時刻までを算出できるデータがないから、
「羽化がおおよそ近いな」という兆候をつかんだらただひたすら待つしかない。
幼虫の翅芽という所が白く濁ってきたあたりから、待機準備に入るのである。
新開 孝

シラホシコヤガの幼虫とヨコヅナサシガメ 2003/12/21
昨日の羽化待ちはまだ続行中なので、ゆっくりフィールドを歩くわけにもいかない。それでも前々から見つけておいた「シラホシコヤガ幼虫」(写真上、中)の撮影をしておくことにした。まさにピンポイントの観察なので、すぐ戻れるよう自転車で一気に飛ばして出掛けた。5分とかからぬ林である。ここの林はクヌギがほとんどを占めるので、今後は「クヌギ林」と呼ぶことにしよう。地衣類のついたクヌギの幹をていねいに見ていくと、幼虫はすぐ見つかる。体全身に地衣類の粉をまぶしてあるので紛らわしくはあるが、3対の三角襞が幼虫の背中に並んでいるのが特徴的でわかりやすい。
地衣類をまとった繭殻も、幼虫のいる場所でたくさん見つかる。こちらは1本の短い柄でぶら下がっている。シラホシコヤガは幼虫越冬で5月頃成虫が現われる。だから今見つかる繭は全て空っぽだ。
幼虫は脱皮するとせっかく全身にまとっていた地衣類の粉を全て失ってしまう。だから脱皮後の幼虫は急いで地衣類の粉を全身にまぶす作業、すなわち隠蔽のお化粧をしなければならない。その様子は以前にビデオ撮影もしたのだが、繭造りはまだ一度も見たことが無い。繭糸に地衣類の粉をどうやってまぶすのか興味深い。
シラホシコヤガ幼虫の餌は地衣類である。衣食住全てを地衣類で賄えているのだから、なんだかうらやましくもなる。シラホシコヤガと同じような生活をするキスジコヤガというのがいる。こちらの繭の写真は拙著『里山 昆虫ガイドブック』に載っているが、シラホシコヤガとは形も大きさも違うのですぐわかる。キスジコヤガはしかし、この清瀬近辺では見たことが無く、多摩丘陵や埼玉県越生町あたりで撮影したことがある。少し山地性なのか、あるいは数が少ないのかもしれない。



この「クヌギ林」には以前、シジュウカラに教えてもらった「ヨコヅナサシガメ幼虫」の越冬集団もいる。その集団がいるクヌギを見てみると暖かいせいか、
1頭だけが幹の低い所を歩いていた(写真下)。
幹の皺の間に潜んでいる獲物でも探しているのだろうか?
新開 孝

キヅタ喰う、蛾の幼虫 2003/12/20
12/11にエノキの幹で見つけた蛾の幼虫は、地衣類そっくりのシャクトリムシ型芋虫だった。この幼虫はエノキに這い上がったキヅタの葉を食べることもやがて判ったのだが、未だに種名は調査中である。
12/16には頭部の後ろが膨れ、脱皮が近いことに気付いた。それからは毎日、様子を窺っていたがようやく昨日から今朝の間に、脱皮した。おそらく脱皮は深夜から早朝にかけての時間帯であろうと思う。
幼虫の体に軽く触れると、驚いたように尺取り歩きを始める(写真上、上が頭)。やがてキヅタの葉に登るように追い立ててみたのだが、落ち着かず(写真下、頭下向き)、エノキの幹に戻ってしまった。そこだと幼虫は安心するのかじっと動かなくなる。そして確かに幹の肌に溶け込んでしまい、擬態効果は抜群である。
このまま野外観察を続けてもいいのだが、きちんと種名確認をしたいのでうちに持ち帰り、飼育をすることにした。そもそも今の状況が終令なのかどうかも判らない。

「羽化待ち」

先日もシャクガ幼虫脱皮を紹介したが、同時進行している他の昆虫の羽化を、この原稿を打ちながら今も待っている(午後3時半)。
したがって、本日もゆっくり林を巡ることができなかった。林ではエリマキアブの若い幼虫が新たに見つかったり、マンション裏では昨日アップしたはやにえのイナゴが消失していたりした。キボシカミキリは1頭のみ見つかった。
新開 孝

エリマキアブ幼虫の獲物とはやにえ 2003/12/19
今日は暖かい。マンション裏のキボシカミキリものんびり梢でくつろいでいるようだ。今日は2頭いたが、個体識別できたものは全部で4頭いるはずである。他の2頭のキボシカミキリを探していると、ヤマグワの枝にモズのはやにえが刺さっていた(写真上)。コバネイナゴであろうか。触れてみるとまだ柔らかく、昨日か今朝あたりに立てられたのではないかと思う。しかし、キボシカミキリは大丈夫であろうか?モズはすぐ近くにもよく来ているようだ。

中里の林に再びアカネズミの死体を覗きに行き、その帰り道。エノキの枝に巻き付いていたエリマキアブ幼虫が、獲物をくわえているのを発見した(写真中)。ユスリカかなにか、その類いの昆虫だが、腹部はほとんどひしゃげている。獲物の同定をしたいので幼虫には申し訳ないが、ピンセットで獲物をそっと摘み採った。エリマキアブ幼虫は小さいアブラムシの場合では体まるごと食べてしまうこともあるが、大抵は体液だけを吸血することの方が多い。獲物の体の外側、キチン質の固い部分は捨てるのである。獲物の調達が成長に必要なだけ間に合えば、さっさと落ち葉の下にでも移動して蛹になるのであろうが、エノキはすっかり葉を落としているので、獲物にありつける頻度は低いと思う。しかし、こうしてばったり食事中のところに出会すこともあるのだから、寂しくなった林もけっこう様々な昆虫や生き物がうごめいている証し、とも言えるだろう。

写真下は、中里の雑木林。画面右の林床には春、カタクリが群生して花を咲かす。アカネズミの死体を見つけたのは写真手前近くの歩道である。
新開 孝

シャクトリムシの逆さま脱皮 2003/12/18
昨夜のシャクガ幼虫脱皮は、深夜3時を過ぎていた。待機している私にとって、もっとも眠くなる時間帯であるが、ほぼ予想していたことなので辛抱強く待つことができた。おっ、始まったか!5分ばかしウトウトしかけていたが、即座にカメラやストロボの電源を入れ、ファインダーを覗く。脱皮が始まる直前に尾脚(一番後ろの脚)で体を固定すると、幼虫はぶらんと逆さまの格好になった。やはり!!そうしてお尻の方へとグイグイ薄皮が手繰り寄せられていき、お面をはずすようにして古い頭殻を振り落とした(写真上)。
このままどんどん皮を脱いでいくと、幼虫は足場を失いまっ逆さまに落下する。ではどうする?と見ていると、手繰り寄せられた皮がお尻に集まった段階で、体操選手のごとく腹筋力(?)でもって一気に体前半を尾脚の方へと折り曲げ、6対の胸脚で葉っぱにしがみついた(写真中)。
胸脚でしっかり踏ん張り、体を固定すると、今度は尾脚を浮かしてお尻を持ち上げ、シャクトリムシスタイルで落ち着いた(写真下)。そこで皮を脱ぎ捨てると、脱皮終了である。
逆さになって脱皮が始まり終了するまではわずか6分しか経っていない。もっとも脱皮兆候が見え始めたのは30時間以上も前からだ。

シャクトリムシ、つまりシャクガ類の幼虫が脱皮するときは、このような逆さま姿勢になることに私が気付いたのは、8年前のことである。そのときはトビモンオオエダシャクの若い幼虫の脱皮を初めて撮影したときであった。最初は枝から天空に頭を向けて直立姿勢をとっていた幼虫が、脱皮開始直前にだらりと逆さ吊り状態になったときは驚いたものである。その後、野外の林で他の種類のシャクガ幼虫が逆さになって脱皮を待つ姿を散見するようになって、この「逆さま脱皮」がシャクガ幼虫たちの共通する習性であろうと確信に近いものを抱くようになっていた。脱皮を直接観察できたのは8年前の一回きりであったから、今回は確認のためにどうしても見届けたかったのである。
もっともシャクガ類の全てがこのような脱皮をするのかどうかは疑っておいた方が良さそうである。

「アカネズミの死体」

落ち葉の下に隠しておいたアカネズミの死体には、それと判る昆虫は来ていなかった。夏場なら死肉解体業の昆虫たちが、それは賑やかに集まっているところだが。

新開 孝
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