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雨宿りのキボシカミキリ 2003/12/01
雨のせいであろう、マンション裏ではムクノキ大木が葉を一斉に落とし、小道は黄色い絨毯に埋め尽くされた(写真上)。
この清瀬やお隣の所沢にしてもそうであるが、雑木林の紅葉は実に冴えない。色付きが良く無い理由の真相には、かなり複雑な環境要因が関わっているのだろうが、ここ10年の間を見てもその悪化ぶりを感じることができる。紅葉の見事な年は、もう来ないのであろうか?

ヤマグワのキボシカミキリは今日も2頭のオスが雨宿りしていた。(写真下)2頭とも、幹の比較的雨のかかりにくいところを選んで静止している。このまま成虫が冬を越せるとは思えないが、どうであろう?


『新開 孝からのお知らせ』

明日2日より4日までのあいだ、『ある記』更新はお休みします。
私は仕事で木曽福島へ出張撮影に赴きます。
仕事の内容は標本撮影なのでフィールドを歩く時間はほとんどありませんが、デジカメは手放しません。
なんとかエリマキアブ(長野版)幼虫も探してみます!
夜は現地の美味しいお酒が楽しみです。



新開 孝

エリマキアブ幼虫、蛹と化す! 2003/11/30
連日の雨だが午後から降り止んだので中里の林を軽く一巡してみた。
例の金網長城の上では「セスジツユムシ」のオスを久々に見た(写真上)。金網の下、長城の土台部には落ち葉の吹き溜まりができておりツル草の株も密生していて、昆虫たちの格好の隠れ家、寝床となっているようだ。今日の気温は差程下がらず、雨も上がったことでこのオスは塀のてっぺんに登ったようだ。

林内の棒杭では「ワキグロサツマノミダマシ」が水滴をおんぶしていた(写真中)。図鑑によればこのコガネグモ科のクモは7〜9月にみられることになっている。『ある記』バックナンバー9/5ではヒメベッコウバチに捕らえられた写真を載せたが、そのときのクモの腹部は緑色である。今日撮影したクモはまるで柚の実の色付きを見る思いがする。これは単に個体差なのか季節の移行に伴うものなのか?そしてこれから冬をどうやって乗り切るのか?
今冬、クモはあらためてじっくり見ておきたい。

さて、11/15の『ある記』では飼育下にあった「エリマキアブ幼虫」1匹が、巻き付いていた枝にタール状の黒色液体を残し、ケース内の落ち葉へと移動したことを書いた。その幼虫がついに蛹となっていることに今日、気付いたのである(写真下)。ここ数日は観察を怠っていたので蛹化した過程や日にちのデータは逃してしまい残念だ!しかしながら蛹になるまでの準備期間はほぼ2週間にも及び、想像していた以上に長いことには驚いた。成虫の羽化はいつになるのであろうか?楽しみである。
現在、中里の林では6匹のエリマキアブ幼虫を継続観察中だが、うち1匹は今日もエノキワタアブラムシを食べている最中であった。
またあのゴマダラチョウ幼虫という大物を吸血した肥満幼虫もまだ同じ枝に巻き付いたままである。
   
新開 孝

「昆虫観察トラップ」万里の長城のごとし! 2003/11/29
昨日ニホンヤモリを見つけたことから、さっそく平凡社の『日本動物大百科・第5巻』を開いてみた。日頃から馴染みの薄い生き物に出会すとわくわくしてくる。ヤモリという身近な爬虫類のことは文字上では知っていても、こと生態、暮らしぶりとなると私は全く無知であることを再認識した。こういうとき座右の書として『日本動物大百科』全11巻はたいへん重宝する。で、この書物から得たニホンヤモリの情報のなかでもっとも注目した点は、彼らが主に人の居住区にしか棲息できない、というくだりである。特に冬眠場所についてはヘビやカナヘビなどのように土中に潜り込めない、ヤモリ固有の事情があるという。つまり家の外壁やガラス窓にぴたりとへばりつく吸盤状の脚の構造にとって、土の粒子がそこに詰まることははなはだヤモリにとって不都合だというわけである。土を掘るにも適した形状ではない。なるほど!そう言われてみれば頷けるのだがヤモリの立場になって考えてみない限り見えてはこない事情だ。
それと冬の気温の問題。ヤモリは民家の暖房、人いきれなどを頼って冬を乗り切るというのである。ニホンヤモリの生息分布の現状は、人の生活圏とともに成立し本来の自然分布は九州西海岸の一部だけではないかということらしい。さすれば中里の林というのはどういう点で人の居住区との接点があるのだろうか?
ところでニホンヤモリの産卵の仕方、この情報も本書から得た。その記事を読んだ途端、私は前々から気に掛かっていたことが即座に理解できた。またもや、なるほど!である。すぐさまパワーショットG5を手に、雨の降る中里の林に赴いたのである。前々から気に掛かっていたこととはこの白い物体であった(写真上)。もうおわかりであろう。ヤモリの卵の殻なのである。2個並べて産むというのが通常の産卵習性であるというから、文字通りである。この卵殻の付いた金網の廂はコンクリート壁上部の高台にあり、仔細に観察できる位置に無いので、今までカタツムリの殻であろうかなどとぼんやり思っていたのである。この卵の殻を今日あらためてよく見ると産み落とされた段階で柔軟な卵は粘液でもって金属壁に密着していたことまでわかった。
さて、この遊歩道と林の境界に長く設えられた金網は、見方を変えればまさに「昆虫観察トラップ」とも捉えることができる。(ここでは景観の善し悪しの問題などは横に置いておこう)この金網の塀はコカマキリの産卵でもわかるように、雨風を凌ぐ頑丈な建造物の一面を持つ。自然界では岩とか大きな木のウロとかいった場所が本来あったはずであろうが、人の活動によってその多くは排除されてしまっているのが現状だ。しっかり雨風を凌げる場所を求めて多くの昆虫、生き物がこの金網の廂を代用せざるを得ないのである。採集にせよ観察にせよ昆虫の姿を望む者にとって、そうした金網塀はまさにお誂え向きの場所となる。塗装され直線的で平滑な金属表面は、観察台のごとく昆虫の姿を浮き上がらせてくれるのだ。林から林へと移動する昆虫の多くが、この「金網の長城」に足掛かりを得て、長らく滞在するも、隠れ家として利用するも不思議なことではない。とにかく安定した足場というものは様々な生き物にとって得難いものなのだ。この『ある記』のバックナンバーでも、アリのヘリポートとして林内の遊歩道の棒杭が利用されていたことに触れたが、他にもこうした棒杭を利用する昆虫は多い。棒杭や金網塀を「昆虫観察トラップ」と捉え直せば、そこには数多くの昆虫が出入りしかつ生活の場としていることに気付くのである。
とすればニホンヤモリにとってこの金網塀は、少なくとも産卵場所として、そして昆虫やクモといった食糧の供給の場としてうってつけの生活空間でもあるといえよう。では、ヤモリにとっての冬の暖房にあたる、風を凌ぐ以上のものがここにあるのであろうか?
それはもしかしたら水銀灯ではないかと思われる。唯一、熱源としてあるものは遊歩道に沿って等間隔にならんだ外灯であろう(写真下)。
私はコカマキリの産卵がこの金網塀に集中する現象を見て以来、様々な昆虫や生き物に出会うこの「昆虫観察トラップ」がいかにすぐれているかを実感しつつある。林に出向いた際にはまずこの金網に沿ってじわじわと歩き見るのだ。その様子は散歩する多くの人から見れば理解不能であっても不思議ではない。カメラを下げている格好が唯一、気狂い扱いされるギリギリのところで私を庇ってくれている。
今日は「昆虫観察トラップ」の効用の一例としてキタテハの蛹も撮影してみた(写真中)。金網に巻き付いたカナムグラで育ったキタテハ幼虫の多くは、葉を綴った巣のなかで蛹になるのであるが、この手間要らずの金属廂を利用する幼虫も少なからず見つかるのである。もっともこの写真の蛹は寄生蜂にやられた死骸であるが、他にも無事羽化した抜け殻は多い。
新開 孝

ニホンヤモリに会う 2003/11/28
薄曇りで今日は寒い。風も冷たい。しかし中里の雑木林ではきっといろんな虫が待っているに違いない。マンション裏のヤマグワには今朝も2頭のキボシカミキリがしがみついていることを確認してから林に赴く。昨日は書き漏らしてしまったが、ずっと観察していたゴマダラチョウ幼虫最後の1頭が一昨日の夜、姿を消した。おそらく地上に降りたのであろう。エノキの葉には残された台座の糸が白く光っているだけであった。来年の春、エノキに幼虫たちが再び戻って来る姿が楽しみでもある。
林ではさっそく「セスジツユムシ」のメスが次々と4頭見つかった。さすがにオスの姿も鳴き声もここのところ皆無だ。最後にオスを見たのは10日以上前だったと思う。メスも触角が切れたり(写真上)脚がどれかもげていたりして彼らの活動期も終焉に近いようだ。

5日前ヘラクヌギカメムシのオスを探したところ、そのとき見つかったのはクヌギカメムシのオスばかり(3頭)であった。今朝はしかし、「ヘラクヌギカメムシ」のメスが3頭、コナラの幹で産卵している(写真中)。「ヘラクヌギ」と「クヌギ」を識別するポイントは腹部気門の色を見るのが確実であるが、カメムシを背面から見た時、両種には体色と斑紋の違いがあるような気が段々してきた。その差異とはなんとなく感じるという微妙なもので、おそらく多数の個体を見ていくなかで会得できるものだと思う。それにしてもこのクヌギカメムシ2種の間に生態上の差異というものがあるのか?「種」とはなんぞや?である。

以前(10/26)雑木林と遊歩道を区切る金網で産卵するコカマキリを紹介したが、今日はその金網のひさしで「ニホンヤモリ」を見つけた。ヤモリを中里の林で見るのは初めてだ。私が小学生のころだから30数年も前の話しだが、四国、松山の町中にはヤモリがいくらでもいたものだ。夜歩けばあちこちの家の外壁にヤモリがへばりついていた。もっとも西日本では関東などに比べてニホンヤモリの個体数は多い。けれど松山の町中も今ではすっかりビルだらけだ。餌の昆虫類も確実に減っているであろうから、ヤモリたちの繁殖も難しくなってきているのではないか。夜行性のニホンヤモリのことだ。私は彼らのことをこの中里の林では最初から意識していなかっただけかもしれない。夜の観察はこれから冬に入っても断然面白い。これを機会に夜間撮影の態勢を整えようと思う。

新開 孝

繭に占拠された、イラガの繭 2003/11/27
昨日「はやにえ」1号を見つけたエノキの梢ではイラガの繭も2つ見つかっていた。そのうち1つは部屋に持ち帰ったのだが、イラガの繭を上から見ると(写真上)、矢印で指し示したところに黒い小さな穴があることがわかる。穴の周辺には白っぽい綿くずのようなものまで付いている。私が繭を持ち帰ったわけはこの黒い穴を見つけたからだ。この穴は寄生蜂のイラガセイボウが産卵した痕なのである。そこで今日はさっそくこの繭内部を覗いてみることにした。
繭の外壁はとても固い。まずはアクリルカッターでカリカリと引っ掻くようにして穴枠の溝を掘っていく。ある程度溝ができたら今度はカッターナイフで慎重に繭壁を切断する。そうやって覗き穴ができたところで顔を見せたのがイラガセイボウの幼虫であった(写真下)。この幼虫を傷つけないよう細心の注意を払って穴を穿つ必要があったのである。
糸でできた網状のものはハチの幼虫がこしらえた繭である。それは非常に薄いものだが、強度的にはイラガの繭が固いのでまったく問題ないというわけだ。もちろん外側の繭を作ったイラガの幼虫は、ハチの子に食べられてしまったのである。ハチの幼虫はこのまま繭内で冬を越し、来年の初夏の頃蛹となり羽化する。羽化したあとは繭の壁を内側から時間をかけて喰い破って穴を穿ち出てくるのだ。繭は一見頑丈で安全なシェルターのように思われがちだが、意外にもそうではない。冬の間に鳥の嘴で割り砕かれ、中身がからっぽになった繭もけっこう見つかるからだ。昆虫にとって鳥は恐るべき存在である。今回、持ち帰った繭は中の幼虫を撮影したあと粘土で蓋をしておいた。おそらく来年にはハチの蛹の写真をお見せできることだろう。それにしてもこの固い繭に穴を穿つイラガセイボウのメスの産卵管の仕組みは一度じっくり見ておきたいものだ。

『エリマキアブ幼虫の恐るべき柔軟動作!』

昨日にも書いたようにエリマキアブ幼虫の数が減っていることもあり、先送りしていたビデオ撮影を急ぐ必要ができて今日はほぼこの作業に集中した。ただし幼虫消失の要因として「大半の幼虫たちが地上へ移動」していると、100%思っているわけではないことを補足しておこう。おそらくは天敵による捕食もけっこうあるのではないかと考えているのだが、その根拠となる証拠現場の一つはすでにおさえてある。ちょうど10日前のことだが、エノキの幹でエリマキアブ幼虫がハエトリグモの一種に捕らえられているのを目撃したのだ!そういえばクモたちは自分の体よりうんとでかい獲物をよく捕まえており、そのハンターぶりたるや凄いものがある。エノキの梢を眺めているとよくハエトリグモ類の目線にぶつかるのであるが、かれらはしかと顔を上げ私を睨んでいく。クモという天敵の存在も侮ってはいけない。それとシジュウカラやエナガが群れをなして梢の細い枝先までしきりと丹念に餌探ししているのを眺めていると、これも脅威に違いないであろうと思われる。
で、今日ビデオ撮影したシーンはエノキワタアブラムシを幼虫が捕食する場面であった。なんともこれは凄い!撮った私の腕前のことではなく、そう幼虫の恐るべき動きが!!もうこれは百聞は一見に如かず!残念ながら動画のアップはもう少し先になるので、しばしお待ち願いたい。
新開 孝

はやにえ1号、発見 2003/11/26
柳瀬川の清瀬市金山緑地公園は、JR武蔵野線と関越高速道の交叉する地点から南西に約2Hにある。私のうちから自転車で20分ほどの距離だ。例のエリマキアブ幼虫たちだが、もっとも近場の中里の林ではこのところ次々と姿を消していくので、今日の観察場所として金山緑地公園まで出向いた。エノキの梢を探していくと幼虫は見つかるがここでも数は少ない。こうなってくると動画撮影は急いだ方がいいようだ。大半の幼虫たちがエノキから地上へと移動し始めている。エノキを探っていると今秋初の「はやにえ」が見つかった(写真上)。大きなムカデの一種だ。少し離れた場所ではセグロセキレイにまっしぐらに突っかかっていくモズを見た。遠くて雌雄の判別ができないが、まさに小さな猛禽だ。こやつがはやにえを立てた犯人かもしれない。

水辺の流れのあるところでは、シマアメンボが群れている。水底に映るシルエットは、まるでけものの足跡だ(写真中)。イタチのそれより少し大きいかもしれない。なんとか4つ足を写し込もうとがんばったが、そう思い通りにもいかない。

コナラの葉で見つけたセアカツノカメムシのメス(写真下)。この方は大丈夫のようだなと思いきや、右前脚と中脚が無い。撮影したら手にとってしっかり調べてみようと思っていると、いきなりブ−ンと飛び去った。部屋に戻ってからパソコン上で撮影した写真画像を拡大してみると、なんと!まあ、この方も実はたいへんな災難に遭遇していたことが判明!!脚が2本ももげていたのだから当然ではあるが私が出会うカメムシはどうしてこう怪我虫ばかりなのだろうか?この写真ではわかりにくいが、頭のすぐうしろ、前胸背面中央部に黒いV字型が見える。人で言うとうなじ辺り。これはうんと拡大するとV字型の亀裂であったのだ!黒く見えるのは体液が固まったもの、つまり血痕のようなものだ。これはカメムシが頭の方から鳥の嘴でがぶりとくわえられた、そう推測できないだろうか!?そのショックで脚がもげたのではないか?なんとか辛うじて受難から逃げきったのであろう。
秋はカメムシ類が大きく移動する時期でもある。普段は見かけない山地性のカメムシに近場で出会すのもそのせいであろう。そして色鮮やかなカメムシたちは、臭いの反撃を発揮する前に鳥や様々な天敵に襲われていることを実感できる。モズなどはカメムシの臭いなど平気のようでもあるし。


新開 孝

雨の林と推理 2003/11/25
雨脚は正午前から激しさを増してきた。風も出て来て林の中を歩くのはさすがに私一人だ。空掘川は濁流でゴーゴー唸っている。コサギが堰のところで魚をねらっている。しばらく眺めているとハクセキレイが何かの昆虫をフライキャッチした。こんな日でも川虫が飛んでいるようだ。
昨日書いたセンチコガネのトンネル穴が集中して見られるイチョウ小道まで回ってみた(写真上)。露出した土はしっかり踏み固められているが、そこかしこに櫛で引っ掻いたような犬の爪跡が見られる。まさか犬がセンチコガネにちょっかい出すことあるだろうか?と思う。その可能性も否定できない。地面を這うセンチコガネを犬が弄ぶというシーンがあるかもしれない。もしかしたら犬を連れた人の靴底が凶器であったかもしれない。しかしでは他の様々な昆虫たちの死骸はどう説明できるだろうか?連続死体遺棄事件の犯人が複数いる可能性も充分ありそうである。
林から戻ってマンション裏手を覗いてみると、キボシカミキリは1頭のオスだけが雨に濡れてヤマグワの幹にしがみついていた。その様子を撮影してアップしようと考えていたのだが、部屋に戻って気が変った。昨日持ち帰ったフトハサミツノカメムシがケース内でカリカリと音を立てていたのである。かなりの重症であったから今朝あたり昇天したかと思っていたのだが。それでカメムシの怪我の仔細をもう一度しっかり見ておくことにした。今思えばセンチコガネの死骸もこうして詳しく調べておけば良かったと悔やまれる。
フトハサミツノカメムシ、オスの右胸部うしろから腹部先端に至るまでの大きな損傷は、背面から見たときに比較的直線状に欠けていることがわかった。体が欠損するときに右後ろ脚も付け根近くから一緒にもぎとられている。ルーペでじっくり見ているうちに胸部背面についている欠損、(写真中)でいうと怪我の右端部分は背面方向から衝撃が加わっており、いっぽう腹部にかけての大半部分は体の腹側(底側)(写真下)から力が加わっているように思える。つまりカメムシの体には上下2方向から何らかの衝撃が襲ったのではないか?そうなるとやはり鳥の嘴に襲われたという可能性も浮上してくる。欠損した怪我は1.1Bの長さがある。はて鳥だとすれば何であろうか?直線的に欠損しているということは一撃で穿たれたことを物語るのではないか?しかしこの先の推理を進めるにはあまりにも情報が不足している。
鳥の嘴が昆虫にどのような傷を及ぼすのかなどと真剣に考えたのはセンチコガネの死骸に疑問を抱いてからだが、この先ますます死骸探しに嵌まってしまいそうである。
新開 孝

果実を食べるシャクトリムシ 2003/11/24
午前9時、中里の林。イヌシデの幹にツノカメムシ類のオスがすがりついていた。遠目でもよく目立つ。もう瀕死状態なのかぴくりとも動かない。体の右半分がひどく損傷を受けている。正確に名前を調べるため手にとってみたら脚を動かした。よく見るとツノカメムシの仲間のなかでも稀な種類の「フトハサミツノカメムシ」だ(写真上)。このあたりで見かけるのは今日で2回目。このカメムシの体は夏の間は緑色だが、秋になると写真のように茶色へと色変りする。傷の様子を仔細に見てみるが鳥に襲われたものかどうかは判らない。何かに細かく喰いちぎられたような傷口が痛々しい。冬越しは落ち葉の下や樹皮の隙間などに潜り込むのだが、この時期はまだその場所を求めてか移動している最中なのだろう。今日のように気温も低い日は動きも鈍いので、鳥にでもねらわれたらひとたまりもない。
このところようやく林全体が色付き始めた。しかし、木によって紅葉や落葉のタイミングはかなりばらつきが大きい。エノキもまだ緑の葉をつけているものから、黄色く見事な紅葉をしているもの、すでにほとんど落葉しかけているものなど、様々だ。そのエノキの梢ではつい数日前からシャクガの一種の幼虫をときおり見かけていた。とくに落葉した枝にしがみついていると完全に溶け込んで、うっかりすると見落としてしまう。体長は1B程度で若い幼虫ばかりだ。ところが今朝はこのシャクガ幼虫が食事をしているところに出会した(写真中)。なんと枝に引っ掛かっているエノキの果実を齧っていた!『はらぺこ あおむし』のシャクトリムシ・バージョンを見ているようだ。エノキの果実は人が食べても甘くておいしく、弥生時代には食糧として重宝されてもいたらしい。

さて、この『ある記』のバックナンバー「10/23」で、センチコガネの死骸について書き込んだ。まだ読んでいない方はボタン「次ぎ」を押して1ヶ月前まで戻ってもらいたい。(なお、近いうちに目次を作製するのでそれまで煩わしい操作に御辛抱願いたい。)あのセンチコガネの死骸が連続して見つかった場所は、イチョウの植栽林のなかに続く20m程の小道である。この場所ではセンチコガネの他にもいろいろな昆虫の死骸がその後も落ちているのが見つかり、連続死体遺棄事件の犯人探しはずっと続行されている。今だ犯人確定に迫る捜査進展はないのだが、センチコガネが連続して(同所でさらに3体目も発見された!)遺棄されていた理由がほぼ判明した。まずは証拠物件の写真である(写真下)。地面に空いた穴ぼこは直径1Bほど。穴掘りの際にかき出された土は人に踏み固められてはいるが、何者かがつい最近掘ったことがわかる。このような穴がこのイチョウ林の小道では何個も見つかるのである。中里の林を巡る遊歩道の一部であるこの小道にこのような穴が集中して見つかることに私が気付いたのはだいぶ前の11月初め頃であった。
この穴を掘った何者かとはもうお判りであろう、センチコガネである。この穴はセンチコガネが犬の糞を運び込んだトンネル口なのである。まだ運び切れない糞がトンネル口の近くに残されていることもあったが、多くの穴ではセンチコガネの迅速な作業のせいか糞を運んだときにできた擦り跡と散乱する犬の体毛が残されているばかりで、路上はすっかり清められているのだ。毎日この小道を通過する犬の散歩人口は相当な数に上るわけだが、糞の後始末についてはほとんどの方がきちんと回収して帰るにもかかわらず、いるのである不心得ものが。その不心得者はセンチコガネ様に足向けて寝れないであろうが!そう!小声で言いたい。
つまり「イチョウ小道」で犬に糞をさせて後始末を怠る飼い主が複数なのか、特定の人間なのかはわからぬが、常習犯として明らかに存在しており、そこへ臭覚に極めて優れたセンチコガネが次々と飛来する。その繰り返しの日々のなかで、何者か(多分、鳥だろう)が目敏くセンチコガネを襲っていたのではないか?そういう解釈にいきつくのである。

注)『はらぺこ あおむし』は偕成社発行の絵本。作者はエリック・カール。絵本としてはベストセラーに入る。どんな小さな書店にでも置いている。新開 孝

コナラの幹に止まる虫 2003/11/23
中里の雑木林に出向く前に、エノキの葉上にまだ残っている最後の
ゴマダラチョウ幼虫を覗いてみた。すると暖かい日射しに体を反らすようにして日光浴している姿があった。この一匹が地上に降りれば、今秋のゴマダラ観察も終了だ。彼らの行く手にはしかし、私たちの想像も及ばぬ天敵、事故などが待ち受けていることも忘れてはならないだろう。無事、落ち葉へと降りました、めでたし、めでたしで観察記を閉じたのでは都合のいい物語りになってしまう。
さて、昨日は中里の雑木林の下草刈りが行われ、林は一段と明るくなった。2日前に見つけて撮影したマンネンタケは柄の中段あたりから上部はすっ飛んでいたが、まあ仕方が無い。草刈りという林の管理は重要だ。ここは清瀬市が民間団体などの意見も取り入れながら管理作業を業者に委託して施行している。雑木林は手入れを怠るとたちまち荒れる。一旦荒れだしたら昆虫観察どころではない。
今日は「ヘラクヌギカメムシ」の「ヘラ」という名前の由来をお話するため、このカメムシのオスを探すつもりでコナラやクヌギの幹を見て回った。残念ながら「クヌギカメムシ」のオスしか見つからなかったが、カゲロウの一種のオスに出会った(写真上)。ちょうど逆光のなかで見つけた個体は、体長が1B程度。尾毛という細い尻尾は体長の数倍の長さがある。腹部の大半は透けている。水以外の餌をとることなくメスと交尾して短い成虫期を終えるようだ。カゲロウはいわゆる「川虫」であるが、林のすぐ横を流れる空掘川で生まれ育ったのであろう。順光であらためて見ると翅が微妙に虹色に輝いて綺麗だ(写真中)。そのうち空掘川にも降りて「川虫」を見てみようと考えている。
カメムシ探索のおこぼれとして、キノカワガも目に飛び込んで来た。(写真下:画面中央右寄り))この見事な擬態にはさすがの私も一度は見落としそうになった。あれ!?という勘が働き、目線を今一度戻したところにこの蛾がぺたりと静止していた。コナラの幹の凹凸とキノカワガの紋様、体の隆起具合など、微妙な立体感を写真に捉えるためにストロボはあえて使わない。キノカワガの翅や体の紋様は非常にバラエティーに富んでおり、静止している樹肌にうまく溶け込んでいる。いろんな場所でキノカワガだけを一冬かけて撮り集めても面白いだろうなあ、そんなことを思っているうちにカメムシのことなどすっかり忘れてうちに戻ってしまった。新開 孝

ホタルガ幼虫とオオスカシバ幼虫 2003/11/22
再び空掘川遊歩道の植え込みを見てみる。昨日のハマヒサカキには
(写真上)のような虫喰い跡が点々とついている。葉の表面の薄膜だけを残し、葉肉を裏側から削り取るようにして喰われている。この丸い窓穴のついた葉を裏返しながら丹念に見ていくと、(写真中)のような直方体の芋虫がけっこう見つかる。写真の芋虫の体長は3@。大きいものでも5@弱程度である。喰い跡の犯人はこの芋虫たちで、ホタルガの幼虫だ。まだ孵化したばかりか、2令幼虫であるものがほとんど。ホタルガの成虫は6月と9月ころにあちこちで見かける。空掘川遊歩道ではハマヒサカキの他にヒサカキも植えられていて、幼虫はそこでもときに大発生している。幼虫は大きく育つと葉っぱのへりからむしゃむしゃ暴食するので、その結果植え込みが丸坊主になることもある。今見つかるホタルガの幼虫は若いまま冬を越す。
クチナシの木も場所によっては多い。今日は少し上流に遡りそのクチナシを覗いてみた。するとクチナシの実がまだ痩せてはいるが朱色に染まっていた。もういないだろうと思っていたら、お尻に角があるオオスカシバの終令幼虫が元気に葉を齧っていた(写真下)。この幼虫はこれから土のなかに潜り込み、蛹で越冬する。成虫の発生パターンはホタルガと似通っていて年2回程度である。
子供を連れての散歩がてらにこうして遊歩道の植え込みを見ていくだけでも、いろいろな虫や、虫の残した痕跡が見つかって面白い。アラカシの生け垣では赤い冬芽のところを覗くと、ムラサキシジミの白い卵がこれまた多い。もちろん全て孵化済みの卵殻である。どれも幼虫が喰いあけた大きな穴がポッカリ開いている。

『エリマキアブ幼虫、今日のメニュウー』

エノキワタアブラムシを喰っている現場はほぼ毎日見られる。このアブラムシが常食メニュウーであることは疑いないところであろう。さて、今朝はどんなメニュウーが飛び出すか!?さすがにもう大袈裟な驚愕は伴わないが、今朝はナミテントウ幼虫に喰らい付いているところを見つけた。ナミテントウは成虫、幼虫ともにアブラムシ喰いだから、こうしてエノキでエリマキアブ幼虫に遭遇することも多いはずで、これは多少とも予測していた出来事である。
新開 孝

ハマヒサカキの花と虫たち 2003/11/21
秋晴れである。中里の林を一巡してから空掘川の遊歩道に出てみた
(写真上)。遊歩道には様々な植物が植えられているが、しばらく歩くとプ−ンと臭う。あまり心地いい臭いではない。それと同時にブン、ブンという翅音がにぎやかに聞こえてくる。振り向いてみると臭いはハマヒサカキの白い花から漂ってきていた。ハマヒサカキの花はたくさん群れて咲いており、そこに多数の虫たちが来ている。
虫の中でも最も数が多いのが、ニホンミツバチだ(写真中)。
ニホンミツバチのうしろ脚には白い花粉団子を付けたものもいる。ハチの動きが早いので撮影する私もそれに合わせて中腰になったり伸び上がったり、忙しく立ち回るうちに汗ばんできた。ニホンミツバチの次にはハナアブやハエ、ヒラタアブの仲間が多く、彼らも花にすがりつくようにして蜜や花粉を舐めとっている。動きの早いハチの撮影では、ここぞというカットが撮れたらしばし画像チェックをする。私の使っているデジタルカメラEOS1-Dは画像の拡大表示機能がないので、微妙なピントの確認はできず、どうしてもカット数が増えてしまう。これでは銀塩カメラとほとんど変らない。まあ、しかしこうしたシャッターチャンスの難しい撮影では、画像チェックに時間をかけるより少しでも多くシャッターを切ったほうがいいかもしれないが。恐ろしく高価なカメラにしては実におそまつな話しである。そうこうしているうちに、ハマヒサカキの植え込みではカマキリ3種がいることに気付いた。狭い範囲にコカマキリ2頭、ハラビロカマキリ1頭、そして(写真下)ハナアブを喰っていたオオカマキリ1頭である。どのカマキリも皆メスであり、花にやって来る虫がお目当てのようだ。

『飽食したエリマキアブ幼虫の今日』

あのゴマダラチョウ幼虫を4日間に渡って吸血していたエリマキ幼虫、今日はどう過ごしているだろう。やはり気になって今日も一番に覗いてみた。すると数Bばかり静止位置が動いている。もう余程満腹だから餌など当分いらんだろう、そう思っていたのだが、驚いたことにエノキワタアブラムシをくわえている!あなたの胃腸は大丈夫ですか!?私は少々あきれてしまった。しかし、待ち伏せという戦略をとるこの虫にとって、獲物が来たらとにかくいただく、そういうプログラムが強く働いているのかもしれない。別の幼虫で観察できたことだが、一匹のエノキワタアブラムシを食べていたところへ次々と2匹のアブラムシが通りかかると、それらもまとめてくわえ込んだこともあったのである。「エイリアン」を凌ぐなんだか凄い生きものである。新開 孝

肥大化!した、エリマキアブ幼虫 2003/11/20
夕べからの雨で中里の林もしっとりと濡れている。さすがに人影も少ない。雨脚が弱まった午前8時半ころ、さっそく問題のエノキを見に行った。するとどうだろう!ゴマダラチョウ幼虫はエリマキアブ幼虫の口にまだぶら下がっている!ついに吸血は4日目に入ったのである(写真上)。
エリマキアブ幼虫の体はもともと偏平型(枝に巻き付くにはちょうどいい体型)なのにすっかり円筒型にまで肥大している。満腹度300%!!そう思いたくもなる。下段2枚の写真は通常時の幼虫を、上から順に背中側と腹側(体底面)から撮影したものである。肥大化したことにより体側面についている突起状のひだが、吸血幼虫では体の曲面に消えてしまっている。ゴマダラチョウ幼虫はといえば、すっかり体液を吸い取られて体は萎びており、頭殻のみが生前の形を留めている。
エリマキアブ幼虫がこうした大型の獲物を捕らえ、時間をかけてじっくり吸血したことは、もはや単なる偶発事件とは言えないであろう。それと私がこの現場を4日間に渡って見ていて気になったことは、捕食者と獲物双方があまりにも無防備に目立ち過ぎるということだ。だからこそ私の目にも焼き付くように飛び込んできたのであるが、これは特に鳥などのさらに上位の捕食者にねらわれ易いのではないかという懸念を抱かせる。
その点が少し心配にもなっていたのだが、本日、午後2時半、再度見に出掛けた時点で、すでにゴマダラチョウ幼虫の姿は消えていた。発見時刻からなんと72時間弱!もの吸血劇が終了したのである。エリマキアブ幼虫は太い円筒型のまま枝に巻き付き落ち着いていた。

エリマキアブ幼虫の食性とは、いったい如何なるものなのか?
増々、不思議な様相を呈してきたのであるが、ここで手元の文献を参照してみよう。平凡社の『日本動物大百科、第9巻、昆虫2』(1997)。この本のp132、「ハナアブ類」を開いてみると、朧げにも真相に近いものが見えてくる。本文ではハナアブ類の幼虫は形態、生活場所、食性などきわめて多様であることが紹介されており、特に「ヨツボシヒラタアブはチョウやガの幼虫を専門に捕食することが知られており、フタスジヒラタアブもかなり大型のチョウやガの幼虫を捕食することがある。」という記述が目をひく。まだ何も確証はないが、エリマキアブの正体究明はそう遠くはないかもしれない。ここしばらく幼虫たちが枝に巻き付いているかぎり、私は目が離せないのである。新開 孝

クワエダシャク幼虫とクワコ 2003/11/19
11/17にヤマグワの木に産み付けられたクワコの卵を紹介した。そしてクワコ成虫にはあまりお目にかかれないとも書いた。ところが今日午後2時、羽化したばかりのクワコ成虫に出会ってしまった。(写真上)この場所はキボシカミキリの産卵を撮影したヤマグワの木の並びである。触角が櫛状になっておりオスだとわかる。ムクノキの葉を綴った繭から出て来てそのまま止まっている。ぴかぴかの翅が綺麗だ。よく見るとクワコのうしろ翅の縁が目玉模様になっていることに初めて気付いた。このようにお尻を上向きに反り返したポーズをとっていると、目玉模様が余計に目立つから面白い。今夜にはメスを探し求めて夜空に飛び立つのであろう。夜間ヤマグワを見て回れば交尾しているカップルや、産卵中のメスに出会うのもそう難しくないのかもしれない。
ちなみにキボシカミキリは産卵を撮影してからも毎日オスを見かける。それもつい間近に羽化した新成虫のようだ。ヤマグワを利用するクワコとキボシカミキリが、同じ時期に成虫発生して産卵しているというのも興味深い。
ヤマグワの木につくもう一種の蛾がクワエダシャク。この幼虫も今朝見つけた(写真中)。クワエダシャクはこのまま幼虫で冬を越す。枝に擬態した姿は見事としか言い様がなく、少し目を離すと見失ってしまいそうだ。(写真下)は幼虫を背中側から見たところ。

『ベランダのコアシナガバチ』
10/13にベランダ外壁の植え込みで見つけたコアシナガバチの巣。朝起きるとまずはこの巣を見るのがずっと日課となっていたのだが
今日、午後1時。私の目の前で最後の二匹が巣から飛び去っていった。最後の二匹になったのは数日前だ。こうして少しづつ巣から飛び去っていったハチは新女王なのだが、さて何処でどうやって冬を越すのであろうか。ハチに詳しい同業者の藤丸篤夫さんに先日、話しを聞いてみた。するとさすが藤丸さん!何回か越冬中のアシナガバチを見たことがあるそうだ。いずれも竹筒の中だったという。
さすればこの冬は、竹筒を懸命に見て歩くという楽しみも出来た。
が、これはけっこう厄介な探索でもある。内視鏡レンズを備えたカメラでもないと観察も撮影もできそうにない。

『エリマキ幼虫、歩く!』
仮称、エリマキアブについては新たなコーナーを設けるとは言っても、種名の確定と生活史の全貌を私がまとめることができるのは今後順調にいっても来年の今頃であろうと思う。それまでこの虫について全く触れずに『ある記』を進めるというわけにもいかないだろう。ちょびっとずつだが、書き込ませていただくことにしよう。
さて、かの幼虫は襟巻き状態で微動だにせず、まさにアリジゴクのごとく「待ち伏せ」戦略を常としているのはもう間違いない事実である。何日も同じ枝の、同じ部位に同じ幼虫を見ることができるのだ。しかも私が抜き打ち的に訪れているにも関わらず、捕食シーンに出会うことは珍しくない。一見この待ち伏せ戦略の成果には疑問を持ちたくもなるのだが、あにはからんや、エリマキ幼虫たちのいわゆる「注文の多い料理店」は意外にも繁盛しているのである。もっともエリマキ幼虫の場合、産卵という時点において、母親成虫アブの配慮があると私はにらんでいるのだが。
さて一昨日、私は一匹のエリマキ幼虫が店閉まいして歩み出す瞬間についに立ち会うことができた!タール状の黒色液体を残し近くに移動していた幼虫が、再び動き出したその瞬間でもあった。その歩み方が、実にユニークなのであるが、、、、、!?。しかしこれこそはやはり動画で紹介すべきものだと思う。しばしそれには時間も必要であり、またもや乞う御期待となってしまう。御容赦願いたい。だがしかし、先日触れた驚愕の捕食シーンについては今日、触れておこう。これについてはいろいろ推察なさった方もおられるようだ。幼虫どうしの共食いではないか?とか。それは確かに飼育の当初ですでに観察されている。狭いケース内に2頭押し込まれて、共食いが発生したのであった。しかし、私が是非とも御報告したいのはそれではない。
今になって考えればそういうことがあってもおかしくはない、そう言ってしまうのは簡単なのだ。確かにこの『ある記』でもこれまでエノキの葉からいつゴマダラチョウ幼虫が落ち葉へ移動するのかと、連日注目してきた私ではないか。そうエノキである!エノキワタアブラムシを捕食するエリマキ幼虫が棲んでおるのは、エノキなのだ!だとすれば今のこの時期、エノキの枝を移動するゴマダラチョウ幼虫が「注文の多い料理店」のメニュー項目に入っていたとしたら!?おお!振り返ってみればそうなのであるが、でもそんなあ!?であった。確かにすでにシロジュウシホシテントウを捕食しているエリマキ幼虫を見ている私であるから、そういうシナリオも検討して良かったはずなのだが、前にも書いたようにその一件だけでもって自分の思い込みを解消できなかったのである。一昨日の半狂乱に近くなった私が見た捕食シーンとは、そうゴマダラチョウ幼虫がエリマキ幼虫に吸血されている、その現場であったのだ!!
ゴマダラチョウ幼虫は体のちょうどまん中あたりの横腹をエリマキ幼虫の口に捕らえられて宙ぶらりん状態になっていた。エリマキに対してゴマダラの体長は1.5倍はあろう。体重差はいかほどであろうか。とにかく物凄い獲物だ!11/17、午後2時の発見当初、ゴマダラチョウ幼虫はまだ捕獲された直後と見え、生前の姿をとどめていた。それがさすがにこの大きな餌から吸血するには多大な時間を必要とするのであろう。本日、最後の観察をした午後3時に至ってもなお、吸血状態のままなのである。丸2日間以上のお食事である。さすがにゴマダラ幼虫の体もくの字に折れ曲がり、萎れてきてはいる。明日もまたこの壮絶な捕食現場を訪れるつもりだ。
新開 孝

下新井の林とハラビロカマキリのメス 2003/11/18
所沢市下新井の雑木林に初めて訪れたのは15年前になる。当時はまだ不法投棄もほとんどなく、広大な平地林は平穏な濃い自然にあふれていた。四国に産まれ育った私が憧れていた、ゆるやかなスロープとそこにどこまでも続く落葉樹林という風景があったのである。広い空には電線も無く、テレビドラマのロケもしばしば行われていたりした。私はこの林に毎日のように通い続け、私にとっての大事なフィールドになっていった。畑で働く農家の方とも親しくなった。それから数年してここもどんどん様子が変ってしまった。てっとりばやく言えば荒廃した。とどめはつい最近の広大な清掃工場と林を大きく分断する自動車道の建設であった。そのような今では全国どこにでもある里山の自然衰退に伴いここ数年この林を訪れる回数はほんとうに数えるほどとなった。
今日はしかし久しぶりに出向いてみた。前回来たのはは7月末の雑誌の取材を受けた時だから、今年に入ってわずか2回目ということになる。今日の目的は私がお気に入りだったクリ林で、ちょうど今頃が羽化時期のウスタビガを探すことである。繭にぶらさがったウスタビガを撮影しようというわけであるが、これがいかに困難か、私はよく知っている。以前に『ウスタビガ撮影記』という記事をある雑誌でも書いたのだが、この晩秋に現われる蛾の魅力に私は一時期のめり込んだのである。困難以上の苦難をさえ味わった私はそれでも3年以上の年月をかけて撮影し、あるシーンの撮影をくぎりとしてウスタビガから遠ざかったのであった。
そんな昔のことを思い出したりしながら、林をゆっくり巡ったもののやはりウスタビガは見つからなかった。生け垣のチャ(お茶)の花にはオオスズメバチやコガタスズメバチの女王が吸蜜に来て体中が黄色い花粉にまみれている。さすがにオオカマキリもよれよれという風体で、最後の産卵に漕ぎ着けるだろうか?
林の南側のクヌギの木ではハラビロカマキリのメスが日向ぼっこか、じっとしている。すでにこのカマキリの卵のうもあちこちで見かけるから、もうこのメスの寿命も先は長くないのだろう。農家のおばさんに挨拶してからカメラを構える(写真上)。
クリ林の中では、ツルウメモドキの朱色の実が、ウスタビガ探索に疲れた私の目の前にあった(写真下)。さあ、午後からは中里の林に移動だ。
新開 孝
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