| 愛媛県、松山市の実家に着いたのが午前10時過ぎ。さっそくすぐ近所のエノキを見に行く。ここは数本のエノキ、センダン、イヌビワ、ソメイヨシノ、ムクノキ、クロガネモチなどが植わった狭い三角形をした土地で近くの神社の所有地である。特にエノキには毎年、ヨコヅナサシガメのメスが産卵に来る。今は時期的にちょうどいいはずだが、実のところ私は産卵場面をまだ見たことがない。ここでの産卵場所はちょっと変っている。通常、エノキならば北側の幹にある窪みなどを選んで産卵する。この条件は他の樹木でもだいたい似通っている。私が過去に調べた範囲では、樹種を問わずちょうど目の高さくらいから上下したあたりの幹に、北側のうろとか大きな窪み、皺とかあれば絶好の産卵場になることがわかった。産卵場所はそのまま幼虫集団の夜間の待避所であったり、やがて冬越し場所にもなることが多く、この北側、窪みという条件はとても重要なのである。ところがここのエノキでは、木のすぐ横に神社の石碑が2本建っている。わずかだがエノキの枝の一部は石碑に常に接しているのだ。石碑には文字が刻み込まれており、その溝が産卵場所となっているのである(写真上)。写真では古い5個の卵塊殻が並んでいるのがわかる。これらは去年から以前に産みつけられたものだ。ヨコヅナサシガメのメスにとって、産卵場所の条件というのは、どうやら物理的なものでおおよそ決まると推測できる。石の刻字の溝も木の窪みと同じような条件を備えているのであろう。そういえば、この刻字では数年前にゴマダラチョウの越冬幼虫も見つかっている!秋が深まり、エノキ樹上から地面の落ち葉に降りて行く途中で、ちょうど居心地良さそうな溝に落ち着いたということであろう。さてしかし、今日はヨコヅナサシガメ成虫の姿を見かけない。真新しい卵塊もまだ無い。そこでエノキに登ってみた。ヨコヅナサシガメのメスを探すためだが、そのときふいに目の前にクマゼミを見つけた。至近距離ではすぐ飛び去るはずが逃げない。よく見ると枯れ枝に産卵中のメスであった(写真下)。 | |