| 林の中で佇んでいると、何とも言えない芳香を感じた。 そこでさっそく、クンクンと匂いをたどってみた。
匂いの元はすぐにわかった。林床に生えたスッポンタケだ。 高さ15センチ以上もあるキノコだ。筆の先っちょのような部分がテラテラと濡れて光っている。これが「グレバ」だ。
グレバは胞子汁。たっぷりと胞子を含んだ粘っこい液体だ。
キノコの図鑑などでは、グレバは悪臭を放つと書いてある。大方の人にとってはそうなのかもしれない。しかし、ぼくには良い香りなのだ。林のなかでグレバの匂いを嗅ぐと気持ちが穏やかになるから不思議だ。カメムシの匂いも好きだから、ぼくのようなのは変人なのかもしれないが、世の中にこういった変人は意外と多いものだ。
グレバがたまらなく香ばしいのは、ぼくだけではない。 大きなベッコウバエ(写真下)や小さなショウジョウバエ類がたくさん集まっていた。これらのハエ類は、ペタペタとグレバのご馳走をしきりに嘗めている。撮影中は薄暗くて気付かなかったが、あとで写真を見てみると、小さなアリなどもけっこうたかっていた。 スッポンタケはグレバの強烈な匂いでハエ達を呼び寄せ、胞子の拡散に利用しようという筋書きらしい。
スッポンタケの柄を持って引っ張ってみると、何の抵抗もなくそれこそスッポンと抜けてしまった。柄の下部がこのように先細りになっているとは初めて知った。熟成するとこのように菌根部から離脱するのだろうか。 スッポンタケはグレバをよく荒い落としてから、中華スープにして食べられる。
このスッポンタケはうちの林に生えていたのだが、もっとたくさん見つかるようなら試食してみたい。前に野生キノコは食べないようにしていると、書いたがグレバの魅力に取り憑かれたのかもしれない。
(写真上、中/E-520 ズイコーデジタル14−54ミリズーム) (写真下/E-3 ズイコーデジタル50ミリマクロ)
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