| 宮崎市の南部には双石山山系とその東側に長く続く加江田渓谷とがあって,山歩きやキャンピングなど四季折々,自然を求めて訪れる人が多い。
双石山(ぼろいしやま)は標高509メートル。青島の鬼の洗濯岩と良く似た奇岩(写真上)や巨石が山の特徴となっており,その砂岩層がボロボロと崩れ易いため「ボロいしやま」の名がついたようだ。
じつはこの双石山では過去にベニツチカメムシの採集記録があり,前々から気になっていた。宮崎県内でのベニツチカメムシ採集記録や産地情報はまだ少ししか集まっていないが,この双石山は今の所もっとも近場のフィールドである。うちからは車で登山口まで1時間程度で行ける。
そこで昨日は双石山を訪れ,ついでに加江田渓谷(写真中)も巡ってみた。
まず現場でやるべきことは,ボロボロノキを見つけることが先決。それも1本やそこらではなく,ある程度まとまって生えている場所を突き止めることが肝要だ。ベニツチカメムシの餌はボロボロノキの実であり,本種はこの木があるていどまとまって生えていて,しかも昼なお暗く強風の日でも穏やかな照葉樹林の林内環境が必須となる。その生息環境の様子は先月,佐賀県の既知産地で確かめてきたばかりだ。
しかし,双石山での探索歩きの結果,それらしき木を一本だけ遠目に見ただけで,加江田渓谷においてもボロボロノキは一本も見つけることができなかった。どうやら探索ルートの選択が良くなかったようだ。はじめてのフィールドであるからこういう無駄歩きも仕方が無い。
宮崎に移り住んでから私の知らない初めて出会う樹木はたいへん多い。とくに常緑照葉樹の類いである。宮崎が関東とはまったく違う植生なのは当たり前だが,まるで外国に来たような気分になるほど名前のわからない樹に次々と遭遇する。
加江田渓谷では幸いにも樹木に種名プレートが付いているものがあって,昨日はタニワタリノキを覚えることが出来た(写真下)。タニワタリノキは九州の宮崎県や天草以南,そして屋久島に分布しているまさに暖地の樹だ。夏には淡黄色の球形花序をたくさんつけるのでたいへん目立つ樹のようだ。
まだ他にも名前の知らない樹木が多数あってフィールドを歩くたびに気になってはいるが,これから少しづつ覚えていくしかない。
昨日巡った双石山や加江田渓谷の林は主に照葉樹林で占められており,その豊かな植生には驚いた。宮崎県内や鹿児島,あるいは熊本などでもそうだが,ともかく渓流環境を歩くとどこも素晴らしいと感じてきた。水系環境が豊かなのも九州には火山があるおかげだろう。 もちろん山の植生についてもたしかに宮崎では植林が盛んではあるけど,それ以上に照葉樹林環境が各地にたくさん残されている。 私の郷里を引き合いに出すのは気が引けるが,愛媛の山地平地林ともその植林率が極めて高く,しかもミカン果樹園の作付け面積が広大であり,照葉樹林や広葉樹林といった林は宮崎に比べればはるかに少ない。移住先の候補から愛媛を早い時点ではずした理由の一つはそこにあるのだが,もちろんこれは私の大雑把な見方の結果だ。愛媛の自然も豊な場所はいくらでもある。 仕事場,そして家族の生活の場としての移住先をいろいろと絞り込んで行く作業は長く時間が掛かったが,高知,島根,宮崎の3県が最後に残った候補地であった。
(写真上/E-500 魚眼8ミリ) (写真中,下/E-500 14-54ミリズーム)
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