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シリアゲコバチの幼虫、卵(その2) 2007/09/29
 ハキリバチの一種の幼虫室内を全部、開けてみた。重なり合った葉巻を外側から丁寧に剥いていくと、最後に繭外壁に固く巻き付いた葉だけが残る(写真上)。

 中の幼虫を傷つけないように注意深く繭外壁を解剖バサミで切り開くと、すでに成熟しきったハキリバチの幼虫が現れる(写真中)。

 竹筒内には、幼虫室が全部で6個入っていた。つまりシリアゲコバチがたくさん産卵しても、おそらく6匹の幼虫しか育ち得ないのだ。

 で、6個の幼虫室の繭のうち、ただ一個だけで、そのシリアゲコバチ幼虫が見出された(写真下)。シリアゲコバチ幼虫の体長はすでに3ミリはある。ハキリバチ幼虫はまだ生きているが、動きは鈍く体が少し縮んでいるようだ。

 (その1)で書いたように、幼虫室(繭)2個ではシリアゲコバチの卵の殻だけは見つかっている。しかし、肝心のシリアゲコバチ幼虫の姿がいくら探しても見つからないのだ。そして、シリアゲコバチ幼虫が入っていた繭内では、その卵のふ化殻がこれまた見つからない。

 このことから、いろいろと推察できるが、今のところは現状を冷静に観察するに留めておこう。

 今回、シリアゲコバチの卵に関する情報は、岩田久仁雄著『新・昆虫記』を参照することができた。ヘチマ型の卵が、繭内の前蛹の体表面に産卵されるという、その記載文を読んだおかげで、無駄な遠回りをしないで済んだ。

 
 新開 孝

霧の朝(その1) 2007/09/28
 今朝起きると、窓の外は白一色の世界だった。
 久しぶりの濃い霧だ。いつもの柿の木もまるで水墨画のように浮かび上がっていた(写真上)。

 こういう日は、「クモの巣網展覧会」とでも言えるような光景となる。庭木や草間や、家の周辺あちこちにこれほどのクモが住んでいるのか!とあらためて驚く。

 ジョロウグモの巣網は大きくたいへん目立つが、3重構造になっているので、写真になりにくい(写真中)。

 チュウガタシロカネグモ(写真下)は南方系のクモで、本州では千葉県以南に分布しているようだ。このクモは草はらで綺麗な水平円網を張る。

(写真上/E-330  14-54ミリズーム)
(写真中/E-330  50-200ミリズーム)
(写真下/E-330  50ミリマクロ)

 
新開 孝

シリアゲコバチとその宿主 2007/09/28(その2)
 先日(9/21)アップしたシリアゲコバチの産卵からちょうど1週間目となった。
そこで今日は竹筒を割り開いてみた。

 竹筒の中には、ハキリバチの一種が詰め込んだ葉巻がぎっしりと並んでいた(写真上)。
 シリアゲコバチはこのハキリバチの一種の幼虫に寄生産卵していたのだ。

 そこで、産卵の際に出来たであろう葉巻き表面の産卵孔を実体顕微鏡を使って探してみたのだが、それらしき孔は一個だけしか見つからなかった。

 ところが葉巻表面をさらにしつこく見ていると、1ミリにも満たない、0コンマ数ミリの米粒を小さくしたような卵が数個見つかった(写真下)。これがおそらくシリアゲコバチの卵ではないかと推測している。
(この推測は間違っていた。29日の記事を読んでいただきたい)
 そうだとすれば、シリアゲコバチ幼虫はふ化した後に、自力で葉巻内に侵入するしかない。

 岩田久仁雄著『自然観察者の手記』によれば、シリアゲコバチは過剰産卵をする習性があるそうだ。したがってふ化した幼虫たちは、宿主の餌をめぐってまずは共食いをするという。勝ち残った幼虫だけが成長するわけである。

 今後の経過がどうなるか、継続観察してみたい。

(写真上/E-500  35ミリマクロ+1.4倍テレコン)
(写真下/E-500 ズイコーマクロ20ミリ+1.4倍テレコン/OMフォーサーズアダプター、サンパックPF20XD使用/内蔵ストロボは直射光のまま)新開 孝

柿の木 2007/09/27(その3)
 日中の気温は30度を超える日が続くが、朝晩はかなり涼しくなった。

 とはいえ、朝一番の草刈り作業を終えると、下着まで汗びっしょりだ。1時間程度の草刈りを終えて、シャワーを浴びてから今度はスタジオに入る。

 まあ、プロの昆虫写真家という立場だと、好き勝手ばかりできないというのは、他の職業と何ら違わない。定時に会社や仕事場へ出掛ける必要はないが、定時に仕事が終わることはまずない。そして労働時間についても無制限だ。

 「だって、楽しそうじゃん。それっていいね。楽しいんでしょう?」

 そう嫁さんはよく言う。

 たしかにそうなのだが、しかしそう言われると、カチンともくる。
 反対に、「たいへんでしょう?ねえ、生き物相手だと。」と声を掛けられると、

 「いやあ、そうでもないですよ。楽しくないとこんなこと続かないですよ。」と
思わず答えてしまう。

 どちらの感情も正直なところだろう。

 さて、楽しかろうとなんだろうと、今日も犬の散歩に出る。
 チョロは散歩に出るとき、とっても嬉しい表情をする。大はしゃぎをする。待てましたよ!と声に出しそうだ。そのくらい跳ねる。駆け回る。

 近所の柿の木も、葉っぱをほとんど落として、実も色付いてきた。

(写真/E-330 14-54ミリズーム)

新開 孝

ツマグロヒョウモンの交尾 2007/09/27(その2)
 庭の草むらから、ツマグロヒョウモンの交尾カップルが飛び立った。

 メスが羽ばたき、オスはぶら下がったままで飛翔していく。オスメス両者が羽ばたいたのでは、どうにもこうにも飛翔できないだろうから、チョウの交尾カップルでは、雌雄のどちらかが先導権をにぎることになっている。それがメスかオスかは、種類によってだいたい決まっているようだ。

(EOSキッスデジタルN  100ミリマクロ)

 

新開 孝

『虫のくる宿』 2007/09/27
 森上信夫さんから『虫のくる宿』(アリス館)が届いた。

 森上さんは、以前に何度かこの「ある記」にも登場した昆虫カメラマンだ。本職は大学職員だが、これまでにも昆虫本を出版したりしてセミプロともいうベキ立場だろうか。
 
 『虫のくる宿』は、昆虫の世界をサイエンスのみでなくファンタジーとして組んである。そう言う意味では異色の昆虫本だ。
 本書では山のなかの宿の窓辺が舞台となっている。森の中にぽつんとある宿は、何の飾り気も無い、むしろ山小屋に近い寂しい空間。何もないじゃん、とおそらく多くの方はそう思うような無味乾燥な宿。
 ところが夜になると、窓辺には、、、、、、、、、、。

 私が清瀬に住んでいた頃にはお互いに近かったので、森上さんとフィールドをご一緒することも何度かあった。森上さんのカメラ機材へのこだわり方などを伺っていると、几帳面な性格がよくわかる。フィールドノートの日付なども正確に記憶なさっていて、「あれは何年の何月何日でした」と、まるで歩く昆虫カレンダーみたいだなあ、と感心することも多い。

 昆虫写真家も昆虫カメラマンも同じことだが、プロ、アマの違いを超えて昆虫写真の世界はたいへんにぎやかになってきた。デジタルカメラの進歩のおかげでもあるだろうし、栗林慧さん、海野和男さんをはじめとする昆虫写真家の頂点の方々の影響力も大きい。
 セミプロやアマチュアの方々の昆虫写真もどんどん増えてきて、多様化すればほんとうに面白くなってくるだろう。そうなってくると、今や10人にも満たないと言われるプロの昆虫写真家も、いづれ数人となりさらには消滅してしまうのかもしれない。そうなるとしても、それは市場原理で決まる事だとしたら仕方が無い。
 プロがプロたる理由は、もちろんきちんとある。昆虫写真の世界だけに留まる問題ではなく、世間広く通用する「プロ」の資質のことだ。くどくどしい説明は省こう。
 
新開 孝

草刈りと網室 2007/09/26(その2)
 宮崎の新居(住んで半年なので、まだ新居と言ってもいいだろう)では、敷地そのものが小さなフィールドであり、そして昆虫撮影の野外スタジオともなる。

 そういう環境を求めた結果、宮崎のこの土地に移住することになった。何故に宮崎なのかの答えは、本当はそんな具合でじつに簡単なのだ。
 細々とした理由を箇条書きにすれば、例えば焼酎が美味しいから、とかも入るのだが、、、。

 それでも納得できずに喰い下がる方は多い。

 「なんでまた、宮崎と?
  ほかにもええとこ、いっぱいあった、ちに!なんで宮崎とね!?
  不思議でならんと!?」

 まあ、ことあるごとに説明するのだが、私が昆虫という視点で自然環境の素晴らしさを感じたことを伝えようとすると、なんとももどかしいものがある。
 昆虫だけでなく、いろいろな自然の姿を感じて、それぞれを少しは語ってみるのだが、どうもなかなか伝わらないように思う。自然の魅力を言葉で語るのは難しい。あるいは、そういう能力に欠けているのだろう。

 私の回りには農業を営む方が多い。自然の四季のうつろいに無感覚であるはずがない。だから少しでもお話をしていると、逆に教えてもらうことがほんとうに多い。

 さて、前置きが長くなった。

 今日は初めて、草刈り機で「ワイヤー替え刃」を使ってみた。
 ワイヤーはナイロン製で、15センチの長さのものが2本突き出ている(写真上)。いろいろと商品はあるが、できるだけシンプルで安価なものを選んだ。まあ、ともかくは使ってみなければ。

 ワイヤー替え刃の利点は、石やブロックなどの際まで刈れるということと、地面すれすれまできめ細かい刈り込みができる。
 ただし、背の高い草は苦手で、ワイヤーに巻き付いてしまう。切断力は比較的弱いワイヤー替え刃は、通常の鋼鉄丸刃で刈った後の仕上げに使うと効果的だ。あるいは狭い場所などを刈るときに力を発揮する。

 ワイヤー替え刃で刈るときには、飛散する小石などには注意が必要だ。どこでも刈れるからと、ガンガンやっているとワイヤーではじかれた小石があちこちに飛ぶ。さすがに今日は防護メガネをして、つなぎ服を着込んで草刈りを行なった。

 このようにして草刈り作業は月に2〜3回は行なう。それも場所によって刈り込み方には神経を使う。ある場所などは、カヤネズミの営巣ができるようにススキの背丈をそのままに残したりと。

 また、今日は網室を作り、さっそくそこで撮影も行なった(写真下)。

 今回の網室は可動できるタイプで小さい。パイプは19ミリ径。野鳥撮影のブラインドよりかは少し大きめだが、この網室では体長がせいぜい2センチくらいまでの昆虫を撮影するときに使う。

 網室については、いづれ固定式の大きなものも設える予定だが、いずれにせよその素材には、農業用のパイプ式骨組みが安くて手軽に組めるので便利だ。

 
新開 孝

ナカジロシタバ幼虫 2007/09/26(その1)
 ここのところ、わが家の家壁には無数のナカジロシタバ幼虫が徘徊している。

 彼らの歩き方は、シャクトリムシがスピードアップしたようなせわしい動きであり、その体のうねり具合は、多くの人の目には気色悪く映る事だろう。
 この幼虫を庭で初めてアップで見た時は、けっこう綺麗な模様だなあ、と思えたが、あちこちにやたらと徘徊しているようでは、なんとも有難みに欠けてしまう。
 それでついつい、この幼虫をきちんと撮影する機会を逃してきた。

 このナカジロシタバ幼虫が何故ゆえに大量発生しているかは、しばらくして思い当たった。じつは本種はサツマイモの大害虫なのである。

 うちのすぐ北側の畑はサツマイモ畑であり、以前から葉っぱが穴ぼこだらけになっていた。こんなに虫喰いだらけでいいのだろうか?と気になってはいたが、どうやらナカジロシタバ幼虫の大発生源となってしまったようだ。
 それで畑から幼虫たちはわが家へも侵入してきたと思われるが、蛹化場所は土の中だから、家壁をどんどん登るのはどうしてだろうか?
 どうも幼虫たちの気ぜわしい動きを見ていると、何か異常事態が生じたのではないかと勘ぐりたくなるのである。上へ上へと何かに憑かれたように徘徊しているのだ。それで行き着くところを失って、今度はボトリ、ボトリと地面に落ちてくる。

 落ちて力尽きたものはアリの餌食になっていたりする。うちの犬は一度口に入れたがすぐに吐き出してしまった。セスジスズメ幼虫ならクチャクチャとおいしそうに食べていたが、ナカジロシタバ幼虫はどうやら不味いらしい。
 蛾の幼虫も種類によっては、味の善し悪しがあるのだろう。人にとって美味しい種類などもあるかもしれない。勇気ある方は試してみては、、、、、。

 今日は日没直前、シロヘリクチブトカメムシに吸血されているナカジロシタバ幼虫が見つかった。幼虫は体液を吸われて萎んだ風船のようだ。その反対にシロヘリクチブトカメムシのお腹はパンパンに膨らんでいた。

(写真/E-500  50ミリマクロ)

新開 孝

アゲハのねぐら 2007/09/25
 午前8時ころ。近くの林の縁で目覚めたばかりのアゲハを見つけた(写真上)。

 道路からほんの少し奥まった林の窪みは、三方を草木の茂みに囲まれている。アゲハのねぐらは、そのような条件の場所が選ばれる。
 30年以上前にさかのぼるが、松山の実家の傍でアゲハのねぐらを初めて見つけたことがある。

 そのねぐらの場所には、7〜9匹程度のアゲハが集まっていた。午後6時ころだったと記憶している。アゲハはそれぞれが距離をおいて木の枝や蔓などにぶらさがるように止まっていた。初めて見るそのねぐらの光景にはずいぶんと興奮したのを覚えている。

 さて、今朝のアゲハは一匹だったが、私が近づいたことで急に翅を広げた(写真上)。
 「オッと!旦那はん。
  この恐ーイ眼玉模様を、とくと拝みな!!ってんだよ。
  それ以上近づいたら、ショウチしないよ!!」

 おお!?アゲハの翅にも眼状模様があったんだ。

(写真上/E-330 7-14ミリズーム)
(写真下/E-500  14-54ミリズーム)

新開 孝

庭のチョウ 2007/09/24
 うちの林の縁にはわずかだが、ヒガンバナが咲いた(写真上)。
 もう花盛りのピークは過ぎた。今日あたりがチョウを撮影するにしても最後のチャンスかもしれないと思って、少しだけ撮影してみた。

 訪花するチョウはアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、そしてモンキアゲハ(写真中)だ。数が多いのはアゲハ。カラスアゲハは綺麗なメスだったが、神経質で私の姿を見ただけでプイッと飛び去ってしまった。そういえばナガサキアゲハのメスも近くまで来ていたが、私の姿が気になったのだろうか、花には寄って来なかった。その反面、写真のモンキアゲハのメスは、私を警戒することなくのんびりと吸蜜に耽っていた。
 
 ともかく、ヒガンバナはアゲハの仲間に人気がある。

 コスモスには相変わらず、ツマグロヒョウモンが来ている(写真下)。
 ツマグロヒョウモンは庭のなかで年中、フワリフワリと舞っている。家壁には蛹があちこちにぶら下がっている。足下にはゴロリと幼虫が横たわっている。

 それにしてもコスモスをはじめ、花壇の花はどれもうまく育たなかった。種まきが遅れたことと、やはり土造りがきちんと出来ていなかったせいではないかと思う。
 来春はしっかり土を準備し、花壇の花をいっぱい咲かせたい。そこで仕事がうまく捗るなら、それが良い。


 ※本日の記事は遡って見て下さい。

(写真上、下/E-500 8ミリ魚眼)
(写真中/E-500  50-200ミリズーム)
新開 孝

その動き、アメーバのごとし!(概要) 2007/09/24
 本日の記事は、昨日の観察から始まっており、写真は(その1)から時系列で並んでいる。とりあえずはここの概要を読んでいただき、あとで(その1)から(その3)まで遡って写真を見ていただければ、と思う。

 まず観察の発端となったのは、玄関脇のコンクリート上で発見した物体であった。玄関を出て、庭木のほうへ歩みかけたとき、視界のなかに落ち葉が入った。

 いや一瞬、落ち葉かと思って見過ごすところだった。こういうとき、そのような微細な現象にいちいちこだわるのが、私の性分かもしれない。もちろん今は仕事に深く関係し、欠かす事のできない貴重な性癖とも言える。
 さて、私が足を止めたわけは、その落ち葉の表面にわずかなうねりのような動きがあることに気付いたからだ。

 「なんじゃ、これ!?」

 私でさえ少し不気味に感じたくらいだから、世間一般の方々の多くは、おそろしく気味悪いと感じるはずだし、中には悲鳴の一つや二つは張り上げること間違いないだろう。私には一瞬、蛇の表皮に見えて、しかもそれがざわざわとうごめくのだからますます気味が悪かった。

 まず見た所、わけがわからない、この正体不明の存在に対する恐怖感。そして、もう一つは、写真では伝わらないが、その物体の表面がざわついていること。その波打つようなうごめきから来る気味悪さ。どうやら得体の知れない生物とわかったときの不安な気持ち。
 そういう恐怖感、不安感、気味悪さが重なり合って、誰もが思わず一歩も二歩も後ろへ下がるのではないか、と思う。しかもコンクリートという無機質な舞台上だと、余計に怪しさが増す。

 しかし、私はここでしゃがみ込んでみたのである。少し不気味だがその正体を知りたくなったからだ。しゃがみ込んだ瞬間、物体は急に変形し始めた。私の落とした影や空気の動きに反応したのだろうか。

 アメーバが触脚を伸ばして、体を変形させながら移動するときのように、その物体も細い帯状の突起が伸びて、どんどん移動していくのであった。

 そこでさらに顔を近づけてみて見ると、一匹の生物に見えた物体は、おそらく100匹以上のウジ虫集団であることがわかった。体長5ミリ程度のウジ虫たちはお互いの体を密着させるようにして、あたかも全体の塊が一匹の生物であるかのように移動していく。互いの意思伝達でもなされているのだろうか?と思いたくなる。

 蛾の幼虫には、大集団で移動するものが数多く知られているが、それはたいてい行列移動である。だから「行列毛虫」とも呼ばれる。ところが、このウジ虫集団はまさに合体運動をするのである。見ているとたいへん不思議だ。

 その動き、まさにアメーバのごとし!なのだ。

 しかし、ウジ虫集団はいったい何の目的で、どこへ行こうとしているのだろうか?
 しかも無機質なコンクリートやタイルに囲まれた空間などを、どうして彷徨っているのだろうか?

 何故ゆえにこのような乾燥した無機質上を徘徊しているのか?という二つ目の疑問は、ウジ虫の体の特徴を見ていれば湧いてくる。
 つまり、ウジ虫の体はテラテラと粘膜を帯びているようであり、そして消化器官が透けて見える体表面には色素をほとんど欠いている。
 この体の特徴から想像できることは、彼らは湿り気のある場所で生活してきただろう、ということだ。当然、直射日光など届かない、薄暗い環境のなかで育ってきたはずだ。

 となると、「ウジ虫集団はいったい何の目的で、どこへ行こうとしているのだろうか?」という一つ目の疑問の答えについては、こう推測できる。

 「どこか暗がりへ行こうとしているのではないか。」

 ウジ虫集団は流体移動を続けて、ついにタイルとコンクリートの3面が合わさるコーナーに集結し丸い団子状となって留まった。

 そこで、私は一つの野外実験を行なってみた。彼らに気持ちがあるとすれば、その気持ち、気分を問いかけてみたい。「いったい、どうしたいのよ?」

 私が思いついた実験は、ウジ虫たちの習性には負の光走性があるだろうと推測され、そのことを確かめようというのがねらいだ。
 実験といっても簡単なことで、落ち葉をウジ虫集団の傍に置いておくだけ。落ち葉は少しうねっており、コンクリート面に置くと、そこそこ日陰の空間ができる。例えて言うなら、ウジ虫集団にとっては巨大なテントが出現したようなものだろう。

 落ち葉を置いてからしばらくして、見事に反応が現れた。

 まるで斥候を派遣するかのように、集団の一部から半島がスルスルと突き出してきて、それがグイグイと落ち葉の暗がりへと伸びてきたのであった。
 その様子は、まるで武道館の会場入り口へ観客がドッと押し寄せる様を上空のヘリコプターからテレビ中継しているように見えてくる。
 落ち葉の大きさは、ウジ虫集団全部がギリギリ納まるくらいと思われ、最初の流体移動の勢いから、これはうまく観客誘導に成功したぞ!と一瞬、嬉しくさえなった。

 ところが、しばらくして、観客の流れに異変が生じ始めた。

 武道館で公演予定のスターが急に体調不良を訴えて、突然の公演キャンセルとなってしまった、そんな感じだ。
 観客達はブーブー怒りを現しながらも、次々とUターンし始めたのだ。

 簡単な実験は失敗に終わったのだろうか?

 いやいや、一応は暗がりという環境要素には反応したのだと思う。しかし、別の条件、例えば湿度の要素などが抜け落ちていたのではないか。

 実際、コンクリートとタイルでできたコーナー、角には、わずかな割れ目もあってそこから少し湿り気を帯びている。すくなくとも湿度勾配から、ウジ虫集団がそこへ集結したのも自然な成り行きではなかったろうか。

 なおかつ、ウジ虫たちが求める環境要素として、閉塞環境が必要ではないか。つまり体を回りから支えてくれる、接触物が必須ではないか。それが少なくともコーナーなら若干は、近い要素とも言える。

 コーナーに再び集結して留まってしまったウジ虫集団を見ていて、最初からずっと疑問だったのは、やはり彼らが何処から来たのか?ということだ。
 
 それに彼らの正体は何者だろう?

 何処からやって来たのだろうか?という疑問には、このようなアメーバ状の運動では、そう遠くから移動してきたのではないだろう、と予想できる。日射しを避ける場所とすれば、庭木の植わっている土壌中あたりではないか。
 しかし、何故ゆえ土から離れてコンクリート面へと彷徨ってきたのか?という疑問は残る。

 ウジ虫の正体は、数匹を摘み採って実体顕微鏡下で観察したところ、Diptera(ハエ目)の一種、しかもキノコバエ類に近いものということが薄々、わかった。
 しかし、キノコバエ類の生態について、私はほとんど知識がない。つい最近、おそらくは菌類を食すと思われるキノコバエ類の幼虫を撮影したばかりだが、それでさえ、真相はまだほとんどはっきりしていない。

 今回のキノコバエは、正確にはクロバネキノコバエ科の一種であることはほぼ間違いない。
 学研の『日本産幼虫図鑑』によれば、クロバネキノコバエ科のトゲナガホンクロバネキノコバエの幼虫が、非常によく似ている。ただし、体長の違いから本種(体長が9ミリもある)ではないようだ。
 トゲナガホンクロバネキノコバエの幼虫は、群れて落葉層と土壌層の間に生息し、腐った植物質を食べるそうだ。

 長々と観察の過程を書いてしまったが、私はこの不気味なウジ虫集団を見つけたとき、すぐには文献を調べなかった。キノコバエ類という見当をつけたのだから、図鑑類を調べればいいものを、私はともかく自分の目でしっかりと観察してみたかったのである。

 野外観察やちょっとした実験で、どれだけのことがわかるか、それを試してみたかったのだ。生きものを目の前にして、いろいろと考察したり想像したりすることはとても楽しいのである。これは週刊誌でスターの噂をいろいろと覗き見する楽しみと、そうは違わないかもしれない。
 しかし、今回のようなほとんど正体の知れない生物に初めて対面したときの興奮や驚きは、人間社会のスキャンダルよりかはずっと面白いと、私は思う。

 昆虫写真家の立場としては、このような昆虫の未知なる不思議な生活、くらしぶりというのを、一つ一つ解明しながら、その興奮や驚きを写真で表現したり、文章で書き綴ることも、私の使命であろうし、持ち味ではないかと考えている。

 昨日、高柳芳恵さんの書かれた『どんぐりの穴のひみつ』を読んで、反省したばかりだ。少しはその反省が活かされたのかもしれない。

新開 孝

その動き、アメーバのごとし!(その3) 2007/09/24
 ウジ虫の数匹を摘み採って、シャーレ内で撮影してみた(写真上)。

 体長5ミリ。頭部はつやのある黒色で、体に脚や突起などは見当たらない。体は半透明で、中の茶色の消化管などが透けて良く見える。体表面は粘着物で覆われているかのようだ。

 ウジ虫は互いに体を密着させて、絡めるようにしながら移動していく。写真上は数匹で移動し始めた列の最前部。お互い同士が、足場を提供しながら移動していくような、とても不思議な動きだ。

 じっと動かなくなったウジ虫集団を見ていると、そのままではいづれ干涸びて全滅するように感じた。
 ウジ虫集団にとって、どうやら暗さとある程度の湿度が必要なのだろうと推測した。
 そこでケースに入れた湿った土の上に、集団を置いてみた。すると数時間で、ほとんどのウジ虫が土のなかに潜り込んだ(写真中)。

 ここまでの観察は昨日の出来事。

 そして本日、土のなかを見てみると、ウジ虫のほとんどは蛹となっていた(写真下)。

 ここで、ようやく学研の『日本産幼虫図鑑』のDiptera(ハエ目)の頁を開いてみたのである。
 本種は、クロバネキノコバエ科の一種であるようだ。

新開 孝

その動き、アメーバのごとし!(その2) 2007/09/24
 一つの実験を行なってみた。

 ウジ虫集団の傍に、落ち葉を置く(写真、上段左)。
 落ち葉は風で飛ばされないよう小石を乗せている。
 落ち葉はゆるくカールしており、コンクリとの間に日陰の空間ができる。

 しばらくして、集団から半島が突き出てきた(写真上段右)。まるで斥候が出陣するかのようだ。

 斥候からの伝令が、たちまち集団の本部へと届いたかのように、半島行列が膨らんできた(写真、下段左)。その様子は、武道館あるいは東京ドームの入り口に観客が興奮して殺到するかのような、そんな光景に映る。

 しかし、突如として観客の足取りが急変しはじめた。先に会場に入った観客たちが、公演のキャンセルを聞かされて激怒したようだ。みんな一斉にUターンしてしまった(写真下段右)。新開 孝

その動き、アメーバのごとし!(その1) 2007/09/24(その1)
 落ち葉かと思ったら、それはウジ虫の大集団であった。
 ザワザワと表面がうごめいている(上段左)。

 (写真の順番は、上段左から始まって、右に進み、中段左から右へ、下段左から右へ、最後は下段右)

 ウジ虫集団の形が変形し始めた(上段中)。

 集団は写真右方向へと移動し始めた。大きく二手に別れて列が出来た(上段右)。

 一旦は二手に別れた列は、先に行ってから合流して一本の帯となった(中段左)。

 時計回り派と半時計回り派の二派閥は、それぞれ乱れることなく合流地点へと集束していき、一塊の帯となって右方向へと移動していく(中段中、右、下段左、中)。

 ウジ虫集団は、コンクリとタイルの3面に囲まれたコーナーに集結し、団子状となって静止した(下段右)。
 なんとか上に這い上がろうとする者もいて、どこか別の場所への移動を模索しているように感じた。

 新開 孝
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