| 『東京昆虫デジワイド』という写真集 2007/08/11(その2) | | | | | 今日『東京昆虫デジワイド』(アートン)という昆虫写真集が届いた。 この本の著作者は糸崎公朗さんだ。
自然豊かな野山ではなく、わざわざ大都会の東京砂漠で撮影された昆虫写真だ。しかもユニークな円周魚眼(糸崎さんは独自の撮影手法をデジワイドと名付けている)で表現された写真集には、昆虫を画面の奥から眺める人、日常の通りすがりの人、カメラマン糸崎氏を奇異な目で眺める人、そして撮影している糸崎さん自身、と、人が誌面全体に溢れて、いかにも人臭い昆虫写真が並んでいる。 東京から遠ざかり、わざわざ野山どっぷりの田舎に移った私とは、まったく逆の立場の方だ。
かつて私も、どうせ東京に住んでいるのなら、都会の人社会にしたたかに生きる昆虫を描いてみたい、そう考えてみたことも何度かあるが、それをうまく表現するための写真技法を考えるのも、工夫するのも面倒くさくなって止めてしまったことがある。
それに何と言っても人がたくさん居る場所などは私は苦手で、街中に出掛けること自体が苦痛だ。だから糸崎さんの写真集の内容に強く共感を抱くことができても、私自身はさすがに電車の中や居酒屋のテーブルで昆虫にカメラを向けることはできない。糸崎さんは路上観察の延長線上でそれを実行できたけれど、、。
大都会や地方都市でも、ともかく日本社会のなかで暮らすほとんどの人は、まず昆虫などは見てはいない。それは目の前に、あるいは足下にいても気付かないだけのことだけど、見ようとしない限り昆虫はその人達にとっては存在しないのと同じことだ。
存在しないと思い込んでいる人達にとって、今回の写真集は視点を違えた、「ものの見方」を変えるべく、別世界への案内役を担っているとも言える。 世界は決して一つではなく、「ものの見方」しだいでいくつにもなるというわけだ。昆虫たちの多様な姿の面白さ以外にも、本書でのほんとうの面白さとは、昆虫の眼を通して人の日常空間を裏側から眺め直したところにあるように思う。 こういう写真集の影響で、ある人たちが昆虫世界に目覚め始めるとしたなら、ちょっと、いやかなり悔しい。
ちなみにこの写真集には、私が4ヶ月前まで住んでいた清瀬市のフィールドで撮影された写真も2点、掲載されている。一枚はたしか私も糸崎さんとご一緒したときだったと思うので懐かしい。 また22ページにある「セイヨウミツバチ」は、ほぼ間違いなく「ニホンミツバチ」である。ニホンミツバチは近年、都会に進出して話題になっており、養蜂業の衰退も絡んで、都会でこそニホンミツバチの天下、となっていることを再認識させる写真とも言える。
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