バックナンバー
2003年:7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月

雨宿りのキボシカミキリ 2003/12/01
雨のせいであろう、マンション裏ではムクノキ大木が葉を一斉に落とし、小道は黄色い絨毯に埋め尽くされた(写真上)。
この清瀬やお隣の所沢にしてもそうであるが、雑木林の紅葉は実に冴えない。色付きが良く無い理由の真相には、かなり複雑な環境要因が関わっているのだろうが、ここ10年の間を見てもその悪化ぶりを感じることができる。紅葉の見事な年は、もう来ないのであろうか?

ヤマグワのキボシカミキリは今日も2頭のオスが雨宿りしていた。(写真下)2頭とも、幹の比較的雨のかかりにくいところを選んで静止している。このまま成虫が冬を越せるとは思えないが、どうであろう?


『新開 孝からのお知らせ』

明日2日より4日までのあいだ、『ある記』更新はお休みします。
私は仕事で木曽福島へ出張撮影に赴きます。
仕事の内容は標本撮影なのでフィールドを歩く時間はほとんどありませんが、デジカメは手放しません。
なんとかエリマキアブ(長野版)幼虫も探してみます!
夜は現地の美味しいお酒が楽しみです。



新開 孝

木曽福島のウスタビガ 2003/12/04
12/2〜本日4日までの木曽福島、「美食・美酒の旅紀行」じゃなくて!「撮影仕事記」は『最新情報』に書き込むのでそちらを読んでいただきたい。
さて、今回の木曽福島行きの中でのトピックはなんといってもこのウスタビガのメスである(写真上)!
この写真は12/3の朝、木曽駒高原の新和スキー場で撮影した。繭の付いていた木はシラカバ。
実は前日の夜、スキー場の自動販売機に集まる蛾を観察していたときに、ふと見上げた電飾の巻き付くシラカバにこのウスタビガのメスを見つけたのであった。もしやオスが飛来して交尾しているのではないかと期待して再び訪れた朝であったが、時期が時期である。
こうして今頃、ウスタビガが御当地で羽化するというのはまさに異例中の異例なのである。関東でさえもウスタビガの羽化ピークはすでに終わろうとしているのだ。スキー場には未だに雪は無く(写真中)、例年にない暖冬を迎えているのである。所沢の雑木林でのウスタビガ探索に失敗という雪辱をはらすことができた私。だがしかし地元の方々にとってはスキー場オープンの目処が立たず、たいへん困った事態なのである。
ウスタビガを撮影したシラカバの木には、他にも5個の繭がぶら下がっていた。去年の秋、自動販売機の灯りに飛来したメスが産卵し、ここで幼虫が育ったものであろう。
スキー場ではミズナラの冬芽で、ジョウザンミドリシジミ(写真下,写真中央左の白いまんじゅう型)と、ウラミスジシジミの越冬卵を見つけた。ちょうど道路から梢に手が届く位置にミズナラがあったのだ。さすがに木のてっぺん近くの頂芽を見ることはできなかったが、おそらくほぼ確実にアイノミドリシジミのでっかい卵が付いていたはずだ。

新開 孝

フユシャクガ、舞う 2003/12/05
午前中のみ中里の林を歩く。

アオゲラのドラミングが聞こえる(午前9時)。
エリマキアブ幼虫はエノキで8匹を確認できた。
林内ではフユシャクガの一種、クロスジフユエダシャクのオスが地面すれすれを舞っている。ときおり落ち葉に着地しては処女雌を探しているが、長くは歩かずすぐに飛び立ってしまう。オスの撮影ができないまま歩いていると、例の歩道の柵の棒杭をつなぐロープで、翅の退化したメスを見つけることができた(写真上)。図鑑でフユシャクガのメスの名前を調べるのはたいへんだが、クロスジフユエダシャクについては以前に交尾を撮影しているので、本種のメスであることがわかった。どんより曇っていて気温も低く、活動する昆虫はクロスジフユエダシャクくらいのものだ。そこで観察トラップの金網を覗いてみると、エリマキアブ幼虫が3匹見つかった(写真下)。この幼虫たちも金網を足場として利用することは前々から見ていたのだが、いかにも寒くて冷たい足場のようである。

今日はさらに金網でヘラクヌギカメムシのオスをようやく見つけたのだが、持ち帰る途中で逃げられてしまった。残念。

新開 孝

クロスジフユエダシャク 2003/12/06
昨日はクロスジフユエダシャクのオスを撮影できなかった。しかし今日はまたしても「観察トラップ」に救われ、じっと静止するオスを紹介することができた(写真上)。とにかくオスはメスを探すのに懸命でほとんど飛び続けているため撮影チャンスは少ない。

カンツバキの花ではヒラタアブの一種が蜜や花粉をなめ取っていた(写真中)。
彼らは成虫越冬だから冬でも日射しのある暖かい日には活動する姿をよく見かける。
林では散歩というより運動で歩く人も多い。よく声を掛けて下さる方もいらっしゃる。今日は「あちらでも昆虫を撮影している人がいるよ。」と教えてくれた。私はその人に後で出会ったのだが軽くお辞儀をしただけで話し掛けなかった。普段ならお話をするところだがなんともかんとも二日酔いでフラフラの私であった。

今朝もクロスズメバチ(写真下)を撮影しているとすぐ頭上にアオゲラが現われた。「ピューイ、ピューイ」と甲高い声とともにムクノキの枝で餌を探し始めた。枝には朽ちている所があるのだろう。そこに潜む昆虫などを掘り出しているようだ。そういえば以前にクリ園の地面でクロヤマアリの巣を掘り返していたが、アオゲラはアリ類を好むのかもしれない。NHKの自然番組『生きもの地球紀行』で「武蔵野台地の四季」の制作に携わった際、私はアオゲラの雛への給餌をブラインドの中から間近でビデオ撮影した。そのときの親鳥は嘴からあふれんばかりのアリの幼虫を持ってくることが多かった。
昆虫を糧に生活する鳥には特に興味が湧く。アオゲラが朽ち木からカミキリムシ幼虫を引っぱり出すところなど撮影してみたいものだし、シジュウカラがフユシャクをフライキャッチする様もかっこいい。写真のクロスズメバチは女王であろう。まだ冬ごもりの場所に潜り込んでいない。これもよくモズのはやにえに立てられているから動きの鈍い今頃が一番危ない。
新開 孝

ツチノコと一弦楽器 2003/12/07
天気は良いが今日は日曜日。私は子供の相手もせねばならない身の上によって、じっくりフィールドを巡るわけにもいかない。
それでもボール遊びを適当に織り込んで、子供と中里の林を歩いた。
気温が高いせいか林ではクロスジフユエダシャクのオスが多数、飛んでいる。気になるエリマキアブ幼虫は半数もが姿を消した。おそらくは餌となる小昆虫も激減していることもあって蛹化への準備のため、移動しているのではないだろうか?もちろんシジュウカラなど鳥による捕食圧も季節的にはより高まっているであろうから、姿を消した理由を簡単に決めつけるわけにもいかない。

コナラの葉上ではヤマトカギバの幼虫が見つかった(写真上)。初めは真直ぐな姿勢も私が振動を与えると、すぐさま体を丸めてしまう。子供はこの幼虫を見て「ヘビみたい!」と叫んだ。1B足らずの芋虫が子供にもヘビを連想させるとは、凄いことではないか。

葉っぱもほとんど落として、残るは黄色い葉のみとなったフジではシャクガ類の幼虫を見つけた(写真下)。この幼虫が熟令幼虫なのかどうかもわからず、当然種名も確定できていない。口から出した絹糸がピンと張り詰め、そうしながら体を小刻みに左右にゆする。その様をじっと見ていると、なんだか怪しい音楽が流れてくるのではないか、そんな気がしてくる。
新開 孝

シジュウカラと昆虫 2003/12/08
中里の林でヒメシロモンドクガの幼虫が数匹、枯れかけたフジの葉にしがみついていた。この蛾は若い幼虫で越冬するらしいが、今日見つけた幼虫はみな中令以上まで育っている。フジの葉はほとんど落ちてしまい餌には困っているようであった。飢えて死んだものもいる。これも温暖な気候のために産卵期が遅くなってしまったことが原因なのであろうか?

林を歩いているとシジュカラの群れが私の頭上をにぎやかに追い越していく。そのうちクヌギの大きな枯れ枝に2、3羽が次々と降りて来て餌を探し始めた(写真上)。枯れ葉が塊になってついているところへ来ては、なにかをしきりについばんでいく。何度も繰り返すので余程、獲物が多いのだろう。私も近寄って枯れ葉の塊をポンポンと下から手で叩いてみた。するとクサカゲロウの一種が次々に飛び出して来た(写真中)。その数が多いのには驚いた。小さな蛾も混じって姿を現わす。シジュウカラたちは枯れ葉の間に潜んでいる昆虫を摘み出しては食べていたのだ。枯れ葉の塊を次々と叩いていると、一端は遠ざかっていたシジュウカラがまた近くまで戻って来た。こちらを恨めしそうに覗き込んでいるのがわかる。私はゆっくりと後ろへ退いた。

林のなかの日溜まりでは2mくらいの高さでヒラタアブの一種がホバリングしている。何か目的があるのだろうか?これから異性を見つけて交尾するとも思われないが。
新開 孝

夜のキリガ 2003/12/09
昨夜から夜の雑木林を訪れることにした。
午後6時から約1時間だけ林を巡ってみると、キリガ類の成虫が5頭見つかった。いずれも同じ種類でしかも歩道柵のロープ上に止まっていたり、落ち葉から這い出て棒杭を登っていたりした(写真上)。時間帯から考えれば、今夜の活動をこれから始めようとウオームアップしていたのであろうと思われる。棒杭やロープは夜空への離陸台になっているようだ。明晩はさらに時間帯を遅らせて林に行ってみるつもりでいる。

(夜の観察、撮影の結果は翌日アップとなることを了承願いたい。)

ツルウメモドキ(写真中)は、中里の林の入り口近くで最近見つけた。かなり大きな株であるが樹上高くに絡んでいたので、ずっと気が付かずにいたのだ。この高さに視線が向いたのは数日前から鳥の撮影も始めたからである。特に林の梢を渡り歩くかのようなシジュウカラ、メジロ、エナガなどの姿、鳴き声に神経を集中すると自然と目線は仰角となってしまう。上へ上へと目がいくのだ。昆虫探しでも高みを意識して見ることがないわけではないが、視線は目線から俯角の方向に集中する傾向が強い。鳥と昆虫では視線の集中する場所も全然、違ってくる。自ずと自然を洞察する脳内の活性部位も微妙に相違してくるわけである。

昨日、シジュウカラたちが枯れ葉の塊や、樹肌などで獲物を探していた姿が気になり、今朝はその様子をしっかり写しておくことにした。400ミリレンズを構えてクヌギ林に座り込む。シジュウカラたちはにぎやかにさえずりながら移動するので、とりあえずは耳だけに神経を集中しておけばいい。鳥を待ちながら朝の日射しに白く照る落ち葉を見渡していると、ぽつんと黄色く強く輝くものが目に入った。
「おや、何じゃろか?葉っぱにしては濃い色しとるなあ」
そっと近づくとキチョウが落ち葉に止まっていた(写真下)。太陽と逆の方向に翅を少し傾げている。昨夜はこうして落ち葉の中で一夜を過ごしたのだろう。私が林にいた2時間近くの間微動だにしなかったが、午後から気温が上がればもう少し安全で風を凌げる場所に潜り込むだろう。
新開 孝

樹上で越冬!ゴマダラチョウ幼虫 2003/12/10
今頃のゴマダラチョウ幼虫といえば、すでにエノキから降りて落葉下で冬を越しているはず。ところが今日、エリマキアブ幼虫でもいないものかと覗いたエノキの小木でそのゴマダラチョウ幼虫を見つけた(写真上)。体の色は枝に溶け込む見事な擬態色。こうした木の上での越冬例は暖冬の年には見られるそうだ(私は四国の松山市で一度見ている)が、やはり数は少ないと言えるだろう。来年の春までは落ち葉をめくらない限りもうゴマダラ幼虫を見ることがないだろうと思っていただけに、少し驚いた。このまま春を無事に迎えるのか、それとも寒さがさらに厳しくなると移動するのか興味深い。

昨日に引き続きシジュウカラの餌捕りシーンをねらってクヌギ林に行った。林のなかで餌探しをするシジュウカラの群れは10羽程度であろうか。ときにコゲラも混じっているが、両者の餌探しにははっきりと違いがある。コゲラはもっぱら木の幹と枝に貼付くようにして特に朽ちているところなどを突いては虫などをついばんでいる。これに対しシジュウカラたちの探索範囲は縦横無尽というべき、落ち葉の下から木のてっぺんに至るまで、あらゆる場所を覗き込み獲物を漁っていく。その身軽な動きを追い、なおかつ餌をくわえ捕った瞬間を写し止めるのはかなり難しい。今朝はなんとかアブかハエの仲間らしき獲物をくわえ捕ったカットが一枚だけ撮れた(写真中)。しかし動きの速いことに加えて、ほとんどの獲物はたいへん小さいことが多くたとえ写し止めても何がなんだかわからない写真にしかならない。おいしそうに昆虫を食べるシジュウカラを撮ることが、この冬の私の課題の一つでもある。
こうしてシジュウカラを目で追っているうちに、クヌギの幹にへばりつきちょこんと突いていったものがあった。そこは何か黒っぽいもので樹肌の皺が埋まっている。そばに寄って見上げれば、おお!
ヨコヅナサシガメの幼虫集団ではないか(写真下)。臭いでもかがされたのかシジュウカラはすぐに去ってしまった。いずれじっくり探そうと思っていたサシガメであるが、シジュウカラに居場所を教えられるとは!当たり前ではあろうが、虫探しはやはり彼らの方が上手である。

『キチョウ、その後』
昨日アップしたキチョウは、今朝もほとんど同じ場所の落ち葉に止まっていた。私の予想に反して今の寒さはやはり堪えるのであろうか?明日は予報によると雨かもしれない。ちょっと気になる。
新開 孝

逆子でも安産!アブラムシ 2003/12/11
今朝は今にも雨が降り出しそうな雲行きで冷え込む。中里の林を歩いているとポツポツ落ちて来たので早々に帰ろうとすると、エノキの根元に絡んだキヅタの新芽に、黒っぽいアブラムシが群れになってついていた。よく見るとこの寒い中お産の最中のメスがいる(写真上)。アブラムシの仲間は卵胎生といってお腹のなかで卵が孵化して、幼虫が直接産み落とされる。実際にはメス親の体から出て来た幼虫は卵膜に包まれており、外へ体が出てからそれをお尻へとずらしながら脱ぐ。写真ではほぼ脱ぎ終えて脚が自由になる直前である。(アブラムシの名前調べは難しい。今回は種名が不明のままアップした。御存知の方は教えていただきたい。)
またアブラムシの繁殖の仕方は実はもっと複雑で、オスがいたり卵を産んだりと、季節や種類によっても変化する。それについてはいずれ紹介する機会もあるだろうと思う。
アブラムシのコロニーにはトビイロケアリの働きアリが数頭訪れている。アブラムシがお尻から出す甘露がお目当てであるが、さすがのアリも皆、動きは鈍い。アブラムシが逆立ちを始めると、もうすぐお尻から甘露の風船が膨らみ出す合図だ(写真中)。

林の中の歩道柵に「ニトベエダシャク、♀」が止まっていた。ニトベエダシャクの白い粉をかぶったような幼虫は、5月頃エノキやコナラなどでよく見かける芋虫。この芋虫は刺激を与えると体を丸めるので憶え易い。幼虫は成熟すると土の中で蛹となり、なんと半年後の11月頃成虫となって現われる。メスは晩秋に産卵し、卵で越冬する。今朝、出会ったメスは新鮮な翅をしていたが、もう産卵は済ませたのであろうか?

キヅタは常緑のつる性植物でよく知られているが、今日はこのアブラムシ以外に「おもしろ昆虫」を見つけた。明日はそれを紹介したい。


新開 孝

雨の日のキチョウ 2003/12/12
三日前の12/9に落ち葉の中で見つけたキチョウだが、あれからどうなったか気になり今朝は一番に見に行ってみた。すると、なんと!同じ場所で黄色く輝いている!さすがに止まっている格好は違うがほとんど動いていない。というか、おそらく動きたくても動けないのであろう。昨夜中降り続いた雨に打たれながらもじっと耐えていたのである。雨滴が体や翅に残っていていかにも寒そうであるが、見る限りキチョウはそうくたびれている様子でもない。昆虫たちの寒さに対する適応は、我々人間の寒い暑いという感覚とはかなりかけ離れているのだろう。私はこのキチョウをもっと安全な場所へ移してやろうかという考えもチラついたが、やはり止めておくことにした。余計な御世話であろう。いずれ天候も回復しそうだ。

『エリマキアブ、共食いをする!』

金網にもエリマキアブ幼虫が静止していることはすでにお伝えした。その幼虫たちも次々と姿を消す中で、今日はついに「共食い」を目撃した(写真下)!こういう事態はあり得るだろうとは考えていたが、(現に飼育ケース内では一度あった)野外で遭遇する機会は極少ない。これはおそらく餌不足の中、移動していた幼虫が他の幼虫に捕獲されてしまったようである。写真では画面奥の白っぽい個体が食べている方である。

P.S:昨日、キヅタで見つけた「おもしろ昆虫」を今日、紹介するつもりであったが、まだ種名を確認中なので先送りすることになった。

新開 孝

フェイス・ハッガー!? 2003/12/13
昨日にもアップを予告していた「おもしろ昆虫」とは、この「クロスジホソサジヨコバイ」のことであった(写真上)。当サイトでも相互リンクしている糸崎公朗さんの『フォトモ・ホームページ』の「森の三日坊主」でもすでに紹介された昆虫だ。糸崎さんはこの虫を「マエムキダマシ」と命名されており、うまく特徴を捉えての表現で面白い。「森の三日坊主」の組み写真を御覧いただくと、なるほど!と頷ける。新型新幹線のデザインにでも起用されそうな格好良さもある。そして同じような場所で見つかる本種の幼虫(写真中)は、ゼリーのような「ねずみ男」。成虫、幼虫とも個体数は多く、緑の葉をめくっていけばいろんな植物で見つかる。今日はこのクロスジホソサジヨコバイの成虫がワカバグモに捕食されてもいた。このヨコバイについてはまだいろいろ確認したいことがあり、目下観察続行中である。次回に乞う御期待!
(クロスジホソサジヨコバイの種名確認には埼玉大学の林正美先生、国立科学博物館の友国雅章先生にお願いしました。ありがとうございました。)
「フェイス・ハッガー」とはSF映画『エイリアン』に登場するエイリアンの幼体のことである。そのフェイス・ハッガーを想起させるのが、このエリマキアブ幼虫の捕食シーンである!(写真下)
クモの体はかなり崩れてしまっており、それに対してエリマキアブ幼虫のからだは肥大している。まさに太ったフェイス・ハッガーだ!
実は中里の林の歩道柵、「昆虫観察トラップ」ではこのエリマキアブ幼虫を4匹も見つけることができた。これは昨日の雨により落葉下に降りていた幼虫たちが一時避難で柵の棒杭に登ったと思われる。柵でエリマキアブ幼虫を観察できたのは今日が初めてなのだ。
そしてこの「昆虫観察トラップ」は他にもきわめて効力を発揮し、フユシャクガのメス2種を筆頭に様々なクモ、昆虫を見ることが出来たのである。
新開 孝

フェイスハッガーの正体・マネキグモ 2003/12/14
昨日のエリマキアブ幼虫・捕食シーンでは、餌食となったクモは体が崩れて残っておらず、クモの名前を調べようがなかった。「エイリアン」に登場するフェイスハッガーの脚部を連想させたあのクモの脚には、しかしいつか見たことがあるような記憶もある。そこで夕方になってからフユシャクガの観察も兼ねて、クモを探してみた。
すると見覚えあるクモがさっそく見つかった(写真上)。昨日、エリマキアブ幼虫に喰われてしまったクモであることは、ほぼ間違いないと思われる。実際に見つかった場所はやはり歩道柵の棒杭でもあったのだ。
さて、このクモは学研の図鑑『クモ』を開いてみると、「マネキグモ」のようである。「体長は13ミリ前後。3〜4本の条網をはり、そこに脚をのばしてぶら下がると枯れ枝が糸にかかったように見える」という説明にもぴったり合致している(写真下)。太く発達した前脚がとくに目立ち、おそらく獲物をがっしりと押さえ込むのに役立つのでもあろう。
それにしても昆虫がクモに喰われてしまう場面に出会うことが圧倒的に多いなか、昨日のエリマキアブ幼虫はどうしたことか逆転劇を演じていた。前にも書いたがエリマキアブ幼虫がハエトリグモに捕食されたところを私は見ており、クモにはやはりかなわないのかと思いかけていたのだが、自然界では何が起こるかほんとうにわからないものだ。


新開 孝

ヒメアカボシテントウとセミの産卵痕 2003/12/15
柳瀬川の土手沿いにソメイヨシノが並んでいる。自転車を漕ぎながら通り過ぎようとして、気になるものを発見した。幹にへばりついた縦長の灰色をした繭がいくつもあり、初めて見るものだ。蛾の繭であることは間違いないが、只今調査中である。
ついでにソメイヨシノに巻き付けてあった朽ちた板切れも調べてみた。すると板の裏側にはナミテントウと「ヒメアカボシテントウ」が潜んでいた(写真上、右)。こうして並んだところをみるとヒメアカボシテントウがいかに小さいかわかるだろう。体長は大きいものでも5ミリ程度だ。ヒメアカボシテントウはカイガラムシ類を餌とするのであるが、私はまだその食事風景を撮影したことがない。

板切れの表面にはささくれだったような「セミの産卵痕」まであった(写真中)。少しわかりにくいかもしれないが、赤い矢印の方向から産卵管が差し込まれたのである。それで、この板切れをそっとめくるようにして薄皮をはがすと、材中に産み込まれた卵の殻が顔を見せてくれた。細長い紡錘形の卵カプセルは乳白色の透明殻となっていて、中の幼虫たちが、すでに孵化して抜け出たことを物語っている(写真下)。この卵殻をうちに持ち帰り、双眼実体顕微鏡下で一つ一つをじっくり眺めてみた。極細の昆虫針を使ってそっと材中から抜き取ると、孵化した痕跡である裂け目まで確認できた。おそらくは秋のうちに孵化したと思われる本種は、ニイニイゼミあたりであろうか。孵化した幼虫は地上へと落下し、土中に潜り込むのである。
こうしたわずかな痕跡をたどることによって、昆虫の生き様を夢想するのも実に楽しい作業である。

『クロスジホソサジヨコバイ』
本種については問題点もいくつかあって、現在観察中とはすでに書いたのであるが、今の時期に多数の幼虫、成虫が見つかること自体、けっこう話題にしてよい昆虫ではないだろうか。私の観察によると特にヤツデの葉裏で探すのが効率良いようだ。
新開 孝

キボシカミキリ、冬を過ごす 2003/12/16
先月11/16、キボシカミキリの産卵をアップした。そのときでさえ私はこんなにも遅くまで活動するのかと驚いたものであった。
ところが今日のことである。冷たい強風が吹くなか、ふとマンション裏のヤマグワが気になり、よもやいないだろうと思いきや、いたのである!(写真上)しかも3頭。その3頭のキボシカミキリはどれも見覚えのある個体で、ヤマグワにしがみつき木肌を齧ったりしている。ビュービュー強い風に煽られながらも、彼らには冬が来ていないようである。外見上は先月となんら変らぬ生活を送っている。キボシカミキリたちの平静な姿は、やはり暖冬を物語っているのではないだろうか?

中里の林ではまだ葉っぱが残っているコナラも何本かあって、そこではナミテントウがかなりの数、日光浴したりアブラムシを食べたりして活動中だ(写真中、下)。林を巡れば相当数のナミテントウに出会う。しかし、配偶行動を見ることはまずない。中里近辺では大規模な集結を見たことがないが、所沢の雑木林には1ケ所、電柱に集結する場所がある。山地の大集結ほどの数はないが、そこそこ集まって来る。例年だとそろそろその時期にあたる。
アブラムシを食べるナミテントウを見ていると、そのうちアブラムシのいない枝のところに移動して、じっと動かなくなった。何をしているのかよく見てみれば、アブラムシたちが産みつけてあった1ミリにも満たない小さな卵を食べていた。
新開 孝

ヘラクヌギカメムシの産卵、再び 2003/12/17
昨日、キボシカミキリを久しぶりに見たせいで、林に出掛ける前にはヤマグワを覗いてみた。今日も2頭のキボシカミキリが梢でのんびり休んでいて、すっかり葉を落としたヤマグワではよく目立つ。

林ではクロスジフユエダシャクの舞う姿がまったく見られない。すでにピークを過ぎたのであろうか。
コナラの幹では「ヘラクヌギカメムシ」のメスが産卵をしていた。赤い脚がなんともいい(写真上)。今頃というのは遅い方だろう。この場所は以前にも他のメスが産卵していた窪みの続きで、すでに卵塊が3個以上ある。カメムシにとって好条件の産卵場所であるのか、それとも卵塊そのものが他のメスを呼び寄せるのかわからない。ただ、同じ仲間のサジクヌギカメムシでは多数のメスが同所に卵塊を寄せ合うようにして産む習性があり、つまり卵塊群ができあがるのだが、その場合はもっと剥き出しの幹表面であることが多い。ヘラクヌギカメムシ、クヌギカメムシともに樹肌の窪みなどに分散的に産卵するのであるが、特にヘラクヌギカメムシのメスは樹皮のめくれた裏側などに潜り込むようにして産卵する傾向が強いように思われる。これはきちんと調べたわけでもないが、「ヘラ」のほうが卵塊を隠すようにして産んでいるようなのだ。もっと多数の産卵場面を見ないことには何とも言えないが、数年前の記憶やこの秋の観察ではそういう感触を得ている。
そうすると樹皮のめくれたような条件の産卵場所は数が限られてしまうので、自然と産卵場所が1ケ所に集中するのであろうか?

「アカネズミ」

林の散策路では「アカネズミ」の死体がころがっていた(写真下)。触ってみるとまだ死後硬直はそれほど進んでいない。道のまん中でもあるし時間帯から考えれば人や犬が何度もここを通過しているはずだ。少し不思議な発見ではあったが、とにかく死体処理班の昆虫でもいないかと調べてみたが何も見つからない。アカネズミの死体を林の中の落ち葉の下に移しておいて、明日も覗きに来ることにした。

『脱皮と羽化の撮影』

今、2種類の蛾の幼虫の脱皮を待っている。そして他にも羽化待ちの昆虫が2種いて、気が抜けない。朝晩、これらの昆虫の様子をしげしげ眺めてきたが、今日はシャクガ類の幼虫がいまにも脱皮しそうだ。このシャクガは室内で撮影セットを組み、この原稿を打ちながらも待機中。もう一種の蛾は野外のエノキの幹にいる。特にシャクガの方は、面白い脱皮習性ではないかと前々から思うこともあり、それを今回も確かめたいのである。明日にはアップできるかもしれない。
新開 孝

シャクトリムシの逆さま脱皮 2003/12/18
昨夜のシャクガ幼虫脱皮は、深夜3時を過ぎていた。待機している私にとって、もっとも眠くなる時間帯であるが、ほぼ予想していたことなので辛抱強く待つことができた。おっ、始まったか!5分ばかしウトウトしかけていたが、即座にカメラやストロボの電源を入れ、ファインダーを覗く。脱皮が始まる直前に尾脚(一番後ろの脚)で体を固定すると、幼虫はぶらんと逆さまの格好になった。やはり!!そうしてお尻の方へとグイグイ薄皮が手繰り寄せられていき、お面をはずすようにして古い頭殻を振り落とした(写真上)。
このままどんどん皮を脱いでいくと、幼虫は足場を失いまっ逆さまに落下する。ではどうする?と見ていると、手繰り寄せられた皮がお尻に集まった段階で、体操選手のごとく腹筋力(?)でもって一気に体前半を尾脚の方へと折り曲げ、6対の胸脚で葉っぱにしがみついた(写真中)。
胸脚でしっかり踏ん張り、体を固定すると、今度は尾脚を浮かしてお尻を持ち上げ、シャクトリムシスタイルで落ち着いた(写真下)。そこで皮を脱ぎ捨てると、脱皮終了である。
逆さになって脱皮が始まり終了するまではわずか6分しか経っていない。もっとも脱皮兆候が見え始めたのは30時間以上も前からだ。

シャクトリムシ、つまりシャクガ類の幼虫が脱皮するときは、このような逆さま姿勢になることに私が気付いたのは、8年前のことである。そのときはトビモンオオエダシャクの若い幼虫の脱皮を初めて撮影したときであった。最初は枝から天空に頭を向けて直立姿勢をとっていた幼虫が、脱皮開始直前にだらりと逆さ吊り状態になったときは驚いたものである。その後、野外の林で他の種類のシャクガ幼虫が逆さになって脱皮を待つ姿を散見するようになって、この「逆さま脱皮」がシャクガ幼虫たちの共通する習性であろうと確信に近いものを抱くようになっていた。脱皮を直接観察できたのは8年前の一回きりであったから、今回は確認のためにどうしても見届けたかったのである。
もっともシャクガ類の全てがこのような脱皮をするのかどうかは疑っておいた方が良さそうである。

「アカネズミの死体」

落ち葉の下に隠しておいたアカネズミの死体には、それと判る昆虫は来ていなかった。夏場なら死肉解体業の昆虫たちが、それは賑やかに集まっているところだが。

新開 孝

エリマキアブ幼虫の獲物とはやにえ 2003/12/19
今日は暖かい。マンション裏のキボシカミキリものんびり梢でくつろいでいるようだ。今日は2頭いたが、個体識別できたものは全部で4頭いるはずである。他の2頭のキボシカミキリを探していると、ヤマグワの枝にモズのはやにえが刺さっていた(写真上)。コバネイナゴであろうか。触れてみるとまだ柔らかく、昨日か今朝あたりに立てられたのではないかと思う。しかし、キボシカミキリは大丈夫であろうか?モズはすぐ近くにもよく来ているようだ。

中里の林に再びアカネズミの死体を覗きに行き、その帰り道。エノキの枝に巻き付いていたエリマキアブ幼虫が、獲物をくわえているのを発見した(写真中)。ユスリカかなにか、その類いの昆虫だが、腹部はほとんどひしゃげている。獲物の同定をしたいので幼虫には申し訳ないが、ピンセットで獲物をそっと摘み採った。エリマキアブ幼虫は小さいアブラムシの場合では体まるごと食べてしまうこともあるが、大抵は体液だけを吸血することの方が多い。獲物の体の外側、キチン質の固い部分は捨てるのである。獲物の調達が成長に必要なだけ間に合えば、さっさと落ち葉の下にでも移動して蛹になるのであろうが、エノキはすっかり葉を落としているので、獲物にありつける頻度は低いと思う。しかし、こうしてばったり食事中のところに出会すこともあるのだから、寂しくなった林もけっこう様々な昆虫や生き物がうごめいている証し、とも言えるだろう。

写真下は、中里の雑木林。画面右の林床には春、カタクリが群生して花を咲かす。アカネズミの死体を見つけたのは写真手前近くの歩道である。
新開 孝

キヅタ喰う、蛾の幼虫 2003/12/20
12/11にエノキの幹で見つけた蛾の幼虫は、地衣類そっくりのシャクトリムシ型芋虫だった。この幼虫はエノキに這い上がったキヅタの葉を食べることもやがて判ったのだが、未だに種名は調査中である。
12/16には頭部の後ろが膨れ、脱皮が近いことに気付いた。それからは毎日、様子を窺っていたがようやく昨日から今朝の間に、脱皮した。おそらく脱皮は深夜から早朝にかけての時間帯であろうと思う。
幼虫の体に軽く触れると、驚いたように尺取り歩きを始める(写真上、上が頭)。やがてキヅタの葉に登るように追い立ててみたのだが、落ち着かず(写真下、頭下向き)、エノキの幹に戻ってしまった。そこだと幼虫は安心するのかじっと動かなくなる。そして確かに幹の肌に溶け込んでしまい、擬態効果は抜群である。
このまま野外観察を続けてもいいのだが、きちんと種名確認をしたいのでうちに持ち帰り、飼育をすることにした。そもそも今の状況が終令なのかどうかも判らない。

「羽化待ち」

先日もシャクガ幼虫脱皮を紹介したが、同時進行している他の昆虫の羽化を、この原稿を打ちながら今も待っている(午後3時半)。
したがって、本日もゆっくり林を巡ることができなかった。林ではエリマキアブの若い幼虫が新たに見つかったり、マンション裏では昨日アップしたはやにえのイナゴが消失していたりした。キボシカミキリは1頭のみ見つかった。
新開 孝

シラホシコヤガの幼虫とヨコヅナサシガメ 2003/12/21
昨日の羽化待ちはまだ続行中なので、ゆっくりフィールドを歩くわけにもいかない。それでも前々から見つけておいた「シラホシコヤガ幼虫」(写真上、中)の撮影をしておくことにした。まさにピンポイントの観察なので、すぐ戻れるよう自転車で一気に飛ばして出掛けた。5分とかからぬ林である。ここの林はクヌギがほとんどを占めるので、今後は「クヌギ林」と呼ぶことにしよう。地衣類のついたクヌギの幹をていねいに見ていくと、幼虫はすぐ見つかる。体全身に地衣類の粉をまぶしてあるので紛らわしくはあるが、3対の三角襞が幼虫の背中に並んでいるのが特徴的でわかりやすい。
地衣類をまとった繭殻も、幼虫のいる場所でたくさん見つかる。こちらは1本の短い柄でぶら下がっている。シラホシコヤガは幼虫越冬で5月頃成虫が現われる。だから今見つかる繭は全て空っぽだ。
幼虫は脱皮するとせっかく全身にまとっていた地衣類の粉を全て失ってしまう。だから脱皮後の幼虫は急いで地衣類の粉を全身にまぶす作業、すなわち隠蔽のお化粧をしなければならない。その様子は以前にビデオ撮影もしたのだが、繭造りはまだ一度も見たことが無い。繭糸に地衣類の粉をどうやってまぶすのか興味深い。
シラホシコヤガ幼虫の餌は地衣類である。衣食住全てを地衣類で賄えているのだから、なんだかうらやましくもなる。シラホシコヤガと同じような生活をするキスジコヤガというのがいる。こちらの繭の写真は拙著『里山 昆虫ガイドブック』に載っているが、シラホシコヤガとは形も大きさも違うのですぐわかる。キスジコヤガはしかし、この清瀬近辺では見たことが無く、多摩丘陵や埼玉県越生町あたりで撮影したことがある。少し山地性なのか、あるいは数が少ないのかもしれない。



この「クヌギ林」には以前、シジュウカラに教えてもらった「ヨコヅナサシガメ幼虫」の越冬集団もいる。その集団がいるクヌギを見てみると暖かいせいか、
1頭だけが幹の低い所を歩いていた(写真下)。
幹の皺の間に潜んでいる獲物でも探しているのだろうか?
新開 孝

クロスジホソサジヨコバイ、再び 2003/12/22
12/13にも触れた「クロスジホソサジヨコバイ」。あれ以来、私は彼らの翅の模様にいくつかの変異があることに気付き、それが性差によるものなのか、それとも個体変異なのかを知りたくて、いつかはきちんと調べてみようと考えていた。
クロスジホソサジヨコバイの背中の帯び模様を詳しく見てみると、和名のごとく「黒筋」タイプのもの(写真上)と、黒筋の外側が赤い「赤黒」タイプのもの(写真中)、そして12/13にアップした写真のごとく帯びがほとんど赤色の「赤筋」タイプ、というように黒と赤の帯びの巾の取り合わせがいろいろなのだ。赤と黒の筋模様のバランスがこのように違うのはどうしてだろう?
ところで、今までに出会った個体の性別を見てきた限りでは、なんとメスばかり。メスはお尻の方に産卵管を持っているので、性別を調べるには体をひっくり返して、お尻のあたりをルーペで見ればいい。それで今日あらためて15頭を捕獲し、性別を調べてみたところ、メス12頭に対して、オスはわずかに3頭であった。オス3頭の模様は「黒筋」、「赤黒」の2タイプがあり、やはり多くのメス同様に個体変異があるようだ。
オスが少ない理由はなんであろうか?今の時期はすでに幼虫の数がかなり減ってきており、どうやら羽化ピーク終盤のようにも見受けるが、今後、オスが増えてくるのだろうか?

(写真下はメスの顔)


「羽化撮影待機、終了!」

今日も慌てて午前中の短い時間、中里の林を歩き、クロスジホソサジヨコバイの採集のみを心掛けうちに戻った。
そう、まだ例の羽化待ちをしていたのだ。
しかし午後3時過ぎ、私はその撮影待ちからようやく解放された。
その羽化した昆虫とはクロスジホソサジヨコバイそのものに他ならない。
これで彼らの羽化に立ち会えたのは3回目である。
彼らのように体が小さく(幼虫の体長は5ミリ以下)しかも葉っぱの裏側に貼付いたように薄っぺらな状況では、撮影のライティングも苦労する。
幼虫は羽化を始めるまでけっこう移動するので、
撮影位置をあらかじめ定めてライティングをがっちり決めるわけにもいかない。
葉っぱの微妙なカーブなどが予想外のアクシデントとなり、いざ羽化が始まってから慌ててストロボの位置をセットし直すことになる。
そうこうするうちに撮影の絶妙なタイミングを失ったりもした。
そもそも幼虫がいつ頃羽化するのか、羽化予定時刻までを算出できるデータがないから、
「羽化がおおよそ近いな」という兆候をつかんだらただひたすら待つしかない。
幼虫の翅芽という所が白く濁ってきたあたりから、待機準備に入るのである。
新開 孝

多福寺の昆虫観察 2003/12/23
12/15発行の『ナショナルジオグラフィック』12月号、日本版の「日本新発見」というページに、ウスバカゲロウ(アリジコク)の生態写真が掲載されている。繭の見事な断面カットでは蛹の顔や、そして滅多に見られない交尾の貴重なカットまである。このページの写真全てを撮影したのは昆虫写真家、森上信夫さんだ。大学職員というサラリーマン稼業でありながら、日夜、昆虫撮影に励んでいる。根っからの昆虫少年がその夢を未だに追い続けており、そのうち私なども脅かすプロ写真家に脱皮しそうなお方である。いやもうすでに充分脅かされているが。

今日はそんな凄い方と埼玉県入間郡の多福寺の雑木林を歩いてみた。
いきなりシラカシの幹で、私がクサカゲロウの一種を見つける。
地衣類にべったりと止まった格好は、翅を扇状に拡げており、隠蔽効果は高い。しかし、森上さんも「普通、クサカゲロウって翅を屋根型にして静止しますよね」という鋭い指摘の発言。そうなのである。「このクサカゲロウはどうもおかしいね」と言いながら私はとにかく撮影開始。デジタルカメラのプレビュー画面を見て、そこそこに終了すると次は銀塩派の森上さんの番だ。「おっ、これは昆虫撮影ポーズのお手本だ!」すかさず私は森上さんを撮影した(写真上)。銀塩派の森上さんはとても慎重に撮影なさる。懐かしい緊張感がそこには漂う。しかも使っているカメラがオリンパスのOM-4チタンだ!おおっ!
このクサカゲロウ、やはり地衣類の上で撮影したのでは何が何だかわからない写真となった(クサカゲロウにとっては好都合!)。今回は顔のアップ(写真中)のみで、後日、姿がよくわかる写真をあらためて紹介したい。
広い雑木林をゆっくり巡るうちに、フユシャクガの一種のオスが地面に降り立った。「あっ、このオスは地面で吸水しているようですよ!」私が叫ぶ。二人とも地面に腹這いになり、フユシャクガの口元を覗き込み、またもや撮影会。口吻はとても短いが、しきりに湿った地面をなぞるようにして、忙しく伸ばしたり縮めたりしている。
よく見ると、口吻の先の方は二つに裂けており、羽化して間も無い個体ではないか?そんな口吻で水を吸い上げることができるのだろうか?などなど疑問の会話を交わしつつ、撮影の手は休めない。
ひとしきり撮影した後で、種名同定のため採集しようと二人で追い掛け回したのだが、ついに見失ってしまった。
こういう現場を普通の人に見られないで良かった、そう思いながらも、二人はおしゃべり絶えることなく昆虫探索を続ける。
それにしても雑木林はとても静かだ。
コナラの枝ではクリオオアブラムシが集団で産卵をしている(写真下)。
茶色に光っているのが卵だ。いずれ卵の色は黒ずんでくる。孵化するのは来年の春だ。
昼飯を挟んで林を一巡したあと、中里の雑木林に移動した。森上さんも私の『ある記』を毎日、覗かれており、現場に行ってみたいと思われたそうだ。それとエリマキアブ幼虫も一目見たいとのこと。森上さんを林に案内し、マンション裏のキボシカミキリも探してみた。残念ながらキボシカミキリは居なかった。

「エリマキアブ・成虫、ついに羽化する!!」

森上さんをお見送りしたあと、ふと気になっていたエリマキアブ蛹の入った容器を覗き込むと、おお、なんと成虫のヒラタアブがケースの壁に止まっているではないか!
昨夜もしきりと羽化兆候を掴もうとしてじっくり観察したばかりだが、何の変化も見つけられなかった。
ヒラタアブ類の羽化撮影はかなり難易度が高いようだ!羽化したのは本日、昼中であったようだ。
しかしながら謎であったエリマキアブ幼虫の正体は、これで間もなく種名が判明することとなった。
その作業にはしばし時間を要するので、成虫の写真アップも後日になることをご了承願いたい。

新開 孝

エリマキアブ幼虫の正体! 2003/12/24
昨日、多福寺で見つけたクサカゲロウの一種の全身写真を紹介しておこう(写真上)。翅が巾広いため、こうした平面に静止するとどうしても扇状に広がってしまうようだ。ちなみに細い枝に移してみると翅を屋根型にたたんで落ち着いた。体長は2センチ程度だが、触角は翅の長さよりさらに長い。手元の図鑑を調べてみたがこの虫の名前はわからなかった。本種は成虫越冬であろうと思う。

さて、昨日ついに羽化したエリマキアブ成虫を今日撮影した(写真中、下)。謎であった幼虫の正体がようやく判明したわけである。
幼虫はヒラタアブ類の一種であろうことは判っていたので、『ハナアブの世界』というサイトで成虫の名前調べを試みてみた。
その結果、『ハナアブの世界』に掲載されている標本写真から察するに、エリマキアブの正式和名は「フタスジヒラタアブ」のようである。今回羽化した個体はオスであった。
いずれ標本を専門家の方に見ていただき確認をとるつもりでいるので、後日、報告したい。
今までずっと「エリマキアブ」で通してきたので、この名前が頭にこびりついてしまったが、こうなると私が名付けた「エリマキアブ」という呼称は、もはや使いづらくなった。
もちろん、今後も本種の生活については注目していきたいという思いに、変わりは無い。
新開 孝